2024年8月22日
掲載
九州随一の秋祭り「筥崎宮放生会」の歴史と風物詩—500軒の露店が織りなす賑わい
筥崎宮放生会【フリーペーパー パコライフ 福岡県・佐賀県・長崎県央・佐世保版 2024年8月22日号掲載】
博多の秋を彩る筥崎宮の放生会は、春の博多どんたく、夏の博多祇園山笠と並び、博多三大祭りの一つとして広く知られています。この祭りは「万物の生命をいつくしみ、殺生を戒め、秋の実りに感謝する」という深遠なテーマを持ち、その起源は千年以上前に遡ります。古来より、この祭りは地域住民や訪れる人々にとって、日常生活の中で忘れがちな「生命の尊さ」や「感謝の心」を再認識する貴重な機会となっています。
放生会の歴史は非常に古く、伝説によれば、ある時期に行われた戦いの中で多くの命が失われたことを受け、「合戦の間多く殺生す、よろしく放生会を修すべし」という御神託が下されました。この神託を受けて始まった放生会は、当初から非常に重要な神事として位置づけられ、今日に至るまでその意義を持ち続けています。千年以上にわたり続けられてきたこの祭りは、時代を超えてその精神が受け継がれ、多くの人々に愛されています。
この祭りの最大の特徴の一つは、2年に一度、福岡市無形民俗文化財に指定されている御神幸が行われることです。御神幸とは、神輿に御神体を奉じて地域を巡行する行事で、特に奇数年にあたる年には、9月12日と14日にそれぞれ御下りと御上りが厳かに行われます。御神幸には、氏子約500名が参加し、厳かな雰囲気の中で筥崎宮を出発した神輿が、九大病院前やJR吉塚駅前、箱崎小学校前などを巡り、地域の人々に神のご加護をもたらします。御神幸は、古来より地域の安全と繁栄を祈念するものであり、多くの住民や観光客がその壮麗な行列を見守ります。
祭りの期間中、筥崎宮の参道には約500軒もの露店が立ち並び、地域全体が賑わいを見せます。これらの露店では、お化け屋敷や射的、ヨーヨー釣り、新ショウガなどが販売され、家族連れや友人同士で訪れる人々が楽しむことができます。また、放生会ならではの風物詩として、新鮮なショウガを使った料理や飲み物が提供され、秋の味覚を存分に楽しむことができるのもこの祭りの魅力の一つです。祭りの期間中、延べ100万人もの人々が筥崎宮を訪れ、その賑わいはまさに九州随一の秋祭りと言えるでしょう。
放生会のもう一つの重要な行事として、放生会供養祈願祭があります。この祈願祭では、私たちの生活が他の生命の犠牲の上に成り立っていることを深く考え、その命に対する感謝の念を捧げます。日頃は意識することが少ないですが、私たちは日々、動植物など多くの命のおかげで生かされています。放生会供養祈願祭では、商売繁盛や家内安全を祈念するだけでなく、やむを得ず殺生してしまった動物や、家族の一員として共に過ごしたペットなどの霊を慰める儀式も行われます。この祈願祭を通じて、命の尊さを再確認し、感謝の気持ちを新たにすることができるでしょう。
また、筥崎宮の放生会といえば、「社日餅」の存在を忘れてはなりません。社日餅は、祭りの期間中に特に人気のあるお土産で、昔ながらの製法で作られる白餅とよもぎ餅の二種類があります。外側はもちもちとした食感、中には甘さ控えめの粒あんが詰まっており、その素朴な味わいが訪れる人々を魅了しています。放生会に足を運んだ際には、ぜひこの社日餅を味わってみることをお勧めします。祭りの思い出として持ち帰るにはぴったりのお土産です。
筥崎宮の放生会は、地域の伝統と文化が色濃く反映された祭りであり、地域住民のみならず、遠方から訪れる観光客にとっても特別な体験となります。この祭りを通じて、人々は自然の恵みに感謝し、命の尊さを再認識することができます。祭りの期間中は、周辺道路が非常に混雑するため、訪れる際には公共交通機関の利用や、筥崎宮周辺の駐車場の利用が推奨されています。特に国道3号線への出入りは混雑するため、横断歩道や歩道橋を利用して安全に移動するよう呼びかけられています。
このように、筥崎宮の放生会は、長い歴史と深い信仰に支えられた祭りとして、今日でも多くの人々に愛され続けています。地域の人々が大切に守り育んできたこの祭りは、訪れる人々にとっても心温まる体験となり、毎年の恒例行事として多くの人々に楽しみにされています。秋の訪れとともに開催される筥崎宮の放生会は、博多の秋を彩る重要な文化行事であり、これからも多くの人々の心に深く刻まれていくことでしょう。