2024年8月6日
労務・人事ニュース
令和4年度年次経済財政報告:持続可能な経済成長と財政健全化に向けた具体的施策と課題
白書等(経済財政白書、世界経済の潮流、地域課題分析レポート等)(内閣府)
令和4年度年次経済財政報告の概要について詳述します。本報告は、経済財政政策担当大臣による令和4年7月の報告であり、内閣府経済財政分析担当が作成したものです。本報告は、経済財政の動向と課題、労働力の確保と質の向上、成長力拡大に向けた投資の課題の3章構成で、それぞれのポイントを詳しく説明します。
第1章では、経済財政の動向と課題について述べられています。日本経済は、ウィズコロナの取り組みの下で上向きの動きを見せており、今後も感染症による行動変容や国際経済環境の変化に適切に対応することが求められます。具体的には、賃金引き上げや官民連携での計画的な投資を通じて、民需主導の自律的な成長軌道に乗せることが重要です。
現在、日本経済はスタグフレーションの状況にはありませんが、継続的かつ安定的な賃金引き上げと需給ギャップの着実な縮小を進め、賃金と物価が共に上昇する経済を実現する必要があります。経済あっての財政であり、経済をしっかり立て直した上で、官民連携での計画的な投資を通じた経済成長の実現、持続可能な社会保障制度の構築、財政健全化を一体的に推進することが求められます。
次に、第2章では労働力の確保と質の向上に向けた課題が取り上げられています。一人当たり賃金は、デフレが長期化する中で経済全体の稼ぐ力が十分に高まらなかったことや労働生産性の伸びに対する十分な分配が行われなかったことから伸び悩んでいます。労働生産性の伸びと物価上昇率に見合った賃金上昇の実現が重要です。
人口減少に伴う労働投入量の減少が見込まれる中で、女性や高齢者の一層の労働参加、既に就労している者の労働移動を通じた一層の活躍促進が必要です。また、同一労働同一賃金の徹底と男女の賃金格差の縮小に取り組むとともに、人への投資を通じた労働の質の向上に向けて、社会人等の学び直しを強化していくことが重要です。
第3章では、成長力拡大に向けた投資の課題が議論されています。企業の投資活動は全体として慎重に推移してきましたが、官民連携で計画的な投資を進め、脱炭素化やデジタル化に向けた投資を喚起する必要があります。これにより、エネルギー対外依存の低減などの社会課題の解決を付加価値創出に結びつける必要があります。
また、脱炭素コストの円滑な価格転嫁を実現するためには、継続的かつ安定的な賃上げ環境の醸成も重要です。デジタル化の推進は、脱炭素化や地方創生などの社会課題への効果も期待されますが、日本ではIT人材の量・質の不足がボトルネックとなっており、人への投資の強化が不可欠です。
具体的なデータとして、実質GDPは概ね感染症前の水準を回復しており、2022年以降は個人消費を中心に感染拡大が経済に与える影響が低下しています。設備投資も収益改善の中で持ち直しの動きを見せていますが、依然として感染症前の水準を下回っています。家計の貯蓄超過は個人消費を下支えし、賃上げが進む中で個人消費の回復が期待されています。一方、企業部門では新しい資本主義の下でより積極的な投資が求められています。
個人消費の回復には、2022年3月以降、外食や旅行といったサービスを中心に持ち直しの動きが見られますが、中高年齢層のサービス消費は慎重です。輸送機械や電気・情報通信機械を中心に世界的な半導体不足などの供給制約に直面しており、サプライチェーンの強靱化が課題です。輸出競争力の低下や鉱物性燃料の輸入拡大が貿易収支の変動に影響を与えています。
原油価格の上昇は第2次石油危機と同程度であり、日本の物価上昇率は欧米より低い水準にあります。日本のGDPギャップは依然としてマイナスにとどまり、物価上昇圧力は欧米と比べて弱い状況です。デフレ脱却には、継続的かつ安定的な賃金引上げと需給ギャップの着実な縮小が重要です。
我が国の賃金は物価上昇率と労働生産性の伸びに見合って上昇していくことが重要ですが、名目賃金の伸びは物価に対して十分ではなく、時間当たり実質賃金の伸びも労働生産性を下回っています。賃上げを進め、労働分配率を高めるとともに、交易条件の悪化に歯止めをかけることが求められます。長期にわたるデフレの経験もあり、企業は賃金決定に当たって労働生産性や物価動向を重視していません。データやエビデンスを踏まえ、適正な賃上げの在り方を官民で共有していく必要があります。
また、女性の労働参加の進展により、人口減少の下でも就業者数は増加していますが、労働参加が一定程度進んだとしても労働投入量の減少が見込まれます。労働の量の減少を緩和するためには、女性や高齢者などの一層の労働参加の促進が必要です。不本意非正規雇用者や失業者、就業希望者に対しても、制度の見直しや就労支援を通じ、活躍を促していくことが重要です。
労働移動の状況についても、転職入職率は上昇傾向にあり、転職に伴い賃金が増加する者が多い状況です。副業・兼業は若年層を中心に広がっており、成功事例と課題の共有、ガイドラインの普及を通じ、その動きがさらに広がることが期待されます。
最後に、脱炭素化に向けた取り組みとして、環境政策の強化と経済成長の両立が課題です。OECD「環境政策指数」を用いた国際データ推計では、環境政策と経済成長が背反する証拠は得られていません。排出量基準や排出量取引制度の強化は貿易赤字の削減に寄与する傾向があります。日本企業の投資活動は慎重に推移しており、海外への投資割合が高まっていますが、保守的な経営が見られます。デジタル化や脱炭素化は産業の需要構造に変化をもたらし、民間投資の喚起につながることが期待されます。
本報告は、経済成長と財政健全化の両立、持続可能な社会保障制度の構築、人材の質の向上、脱炭素化に向けた投資の重要性を強調しています。今後の政策展開において、
これらの課題に対する適切な対応が求められます。具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
まず、経済成長と財政健全化の両立を目指すためには、経済を強化しつつ持続可能な社会保障制度を構築することが重要です。経済の立て直しには、賃金引き上げと需給ギャップの縮小を進めることが不可欠です。政府と民間の連携による計画的な投資を通じて、経済の安定した成長を実現し、その成果を社会全体で分配する仕組みを整える必要があります。
次に、労働力の質の向上については、社会人や既に就労している人々の学び直しを強化する取り組みが重要です。これは、労働生産性を向上させるだけでなく、賃金の引き上げにもつながります。また、同一労働同一賃金の原則を徹底し、男女間の賃金格差を縮小するための取り組みも欠かせません。特に女性や高齢者の労働参加を促進し、多様な働き方を支援するための制度改革や支援策が必要です。
成長力の拡大に向けた投資の課題では、特に脱炭素化とデジタル化に向けた投資を重点的に推進することが求められます。エネルギー対外依存の低減やサプライチェーンの強靱化を図り、環境負荷の低減と経済成長を両立させるための政策を推進する必要があります。これには、継続的かつ安定的な賃上げ環境の醸成が重要であり、企業の投資意欲を高めるための環境整備が求められます。
さらに、環境政策と経済成長の両立を図るためには、厳しい環境規制の強化が必要です。過去において、厳しい排ガス規制が自動車産業の競争力強化につながったように、今後も環境規制を強化することで、新たな産業競争力を育成することが期待されます。官民連携による計画的な重点投資を推進し、長期にわたって低迷してきた民間投資を喚起することが重要です。
また、労働移動の促進についても重要な課題です。転職や副業・兼業を通じた労働者のキャリアの多様化を支援し、既に就労している様々な年齢層の一層の活躍を後押しする取り組みが求められます。特に、転職に伴う賃金の増加やキャリアアップの機会を提供することで、労働市場の流動性を高めることが重要です。
最後に、脱炭素化の推進に向けた課題として、エネルギー安全保障や環境技術の競争力強化が挙げられます。再生可能エネルギーの導入や原子力発電の活用など、エネルギー政策の多様化を図る必要があります。また、環境分野の研究開発効率を高め、国際競争力を一層強化するために、産学官の連携を強化し、オープンイノベーションを促進する取り組みが重要です。
以上のように、令和4年度年次経済財政報告では、経済成長と財政健全化、持続可能な社会保障制度の構築、人材の質の向上、脱炭素化に向けた投資の重要性が強調されています。これらの課題に対して適切な対応を行うことで、日本経済の持続的な成長と安定した社会の実現が期待されます。今後の政策展開においては、これらのポイントを踏まえた実効性のある取り組みが求められます。
参考:令和4年度年次経済財政報告-人への投資を原動力とする成長と分配の好循環実現へ-(令和4年7月29日)説明資料
⇒ 詳しくは内閣府のWEBサイトへ