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2024年9月8日

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令和5年の賃金不払事案、全国で21,000件超え、約102億円の未払い賃金発覚

賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和5年)(厚労省)

令和5年に実施された賃金不払が疑われる事業場に対する労働基準監督署の監督指導結果が、厚生労働省より発表されました。全国で行われた監督指導の結果、21,349件もの賃金不払事案が確認され、これに関連する労働者は181,903人に達しました。これらの事案に関して、未払い賃金の総額は101億9,353万円に上り、前年と比較して件数や労働者数は増加したものの、未払い賃金の総額は減少しています。この現象は、より多くの事業場で賃金不払が発覚した一方で、個々の未払い額が減少傾向にあることを示していると考えられます。

この監督指導により、労働基準監督署が使用者に対して賃金の支払いを指導し、多くの事案が解決に至りました。具体的には、令和5年中に解決された事案の件数は20,845件で、対象となった労働者数は174,809人、支払われた賃金の総額は92億7,506万円でした。この結果、全体の97.6%の事案が解決され、未払い賃金の91.0%が支払われたことになります。未解決の事案については、一部が翌年に繰り越され、倒産や事業主の行方不明といった理由で解決が難しいものも含まれています。

業種別に見ると、商業、製造業、保健衛生業が特に多くの事案を占めており、これらの業界での監督指導が強化されています。商業に関連する事案は全体の21%を占め、次いで製造業が19%、保健衛生業が15%と続いています。特に保健衛生業では、45,014人と労働者数が最も多く、未払い賃金の総額は21.1億円に達しました。これに続いて製造業が41,218人で15.5億円、商業が25,320人で13.9億円となっています。また、運輸交通業や清掃業、金融業、教育・研究業などでも数多くの事案が報告されており、それぞれの業界で賃金不払問題が依然として深刻な課題であることが明らかになりました。

監督指導の結果として、いくつかの是正事例が報告されています。例えば、ある食料品製造業の事業場では、月60時間を超える時間外労働に対して法定の割増率で計算された賃金が適切に支払われていなかったことが判明しました。労働基準監督署の指導により、事業場は過去に遡って正しい単価で割増賃金を再計算し、不足が生じていた労働者に対して追加の支払いを行いました。このような事例は、他の業種でも多数見られ、割増賃金の適正な支払いが徹底されるよう指導が行われています。

また、飲食業においては、労働時間の適正な把握が行われていなかったため、労働基準監督署の指導により勤怠システムの設定が見直され、正しい労働時間が記録されるよう改善が図られました。具体的には、システム上での端数処理が適正でなく、始業・終業時刻が切り捨てられたり、休憩時間が切り上げられていたりする問題が是正され、労働者に対する労働時間の管理が適切に行われるようになりました。また、制服への着替え時間が労働時間としてカウントされていなかった問題も指摘され、これも是正の対象となりました。

一方で、賃金不払問題に関連して、いくつかの事案が書類送検される結果となっています。例えば、技能実習生に対する賃金不払残業の事案では、使用者が外国人技能実習機構による監査を避けるため、労働時間を過少に偽装し、適正な割増賃金が支払われていなかったことが発覚しました。この結果、使用者は合計約330万円の割増賃金を支払うべきであったとして、書類送検されました。こうした送検事例は他にもあり、労働基準監督署が厳しい姿勢で違反行為に対処していることが伺えます。

令和5年の賃金不払問題は、依然として日本の労働市場における深刻な課題であり、多くの労働者が不利益を被っています。厚生労働省は、この状況を改善するため、監督指導の徹底を図るとともに、倒産や事業主の行方不明などで解決が困難な事案に対しては、「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づく未払賃金立替払制度を適切に運用していく方針を示しています。これにより、賃金不払に苦しむ労働者の救済が迅速に行われることが期待されています。

加えて、今回の報告では、賃金不払事案の背後にある労働環境の改善も重要な課題として浮き彫りになりました。労働基準監督署の監督指導によって明らかになった不正行為は、単なる賃金不払にとどまらず、過重労働や適正な労働時間の管理が行われていないといった、労働者の健康や生活に直接影響を与える問題が含まれています。これらの問題に対しても、厚生労働省は引き続き取り組みを強化し、労働者が安心して働ける職場環境の整備に努めることが求められています。

最終的に、労働基準監督署による監督指導の強化と、未払賃金立替払制度の適切な運用を通じて、労働者の権利が保護され、賃金不払問題が解消されることが期待されます。労働者一人一人が安心して働ける社会の実現に向け、引き続き厚生労働省の取り組みが注目されています。

⇒ 詳しくは厚生労働省のWEBサイトへ

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