2024年9月20日
労務・人事ニュース
全国の小売・サービス業で進行中の人手不足、約60%の事業所が対応に苦慮
記者発表『「人手不足とその対応に係る調査――小売・サービス事業所を対象として」(事業所調査)結果』(JILPT)
2024年8月29日に発表された「人手不足とその対応に係る調査」によると、全国の小売業、飲食業、宿泊業および生活関連サービス業を対象とした調査結果が明らかになりました。この調査は、特にこれらの業界において女性や高齢者、パート比率が高いことから、その人手不足の実態と、それに対する事業所の対応状況を把握するために実施されました。調査は、2024年2月5日から2月29日までの期間に行われ、全国の従業員数10人以上の事業所8,750件を対象に実施されました。結果として、2,652件の有効回答が得られ、有効回収率は30.3%でした。
まず、調査によれば、約6割の事業所が正社員やパート・アルバイトのいずれにおいても人手不足を感じていると回答しています。具体的には、正社員の過不足状況において、「不足」と答えた事業所が57.7%に上り、「適正である」とした事業所は40.7%、そして「過剰」と答えた事業所はわずか1.6%でした。一方、パート・アルバイトの過不足状況についても、「不足」と回答した事業所が56.3%に達し、「適正である」とした事業所は39.8%、そして「過剰」と答えた事業所は3.9%にとどまりました。正社員とパート・アルバイトのいずれにおいても、人手不足が顕著であることが浮き彫りになっています。
このような状況下、事業所はさまざまな対策を講じていますが、その中で最も効果があるとされたのが「求人募集時の賃金の引上げ」です。正社員においては49.7%の事業所が、パート・アルバイトにおいては55.8%の事業所が賃金の引上げを行っており、これが人材確保において重要な要素であることが示されています。また、採用経路の多様化や柔軟な働き方に向けた制度の整備も、多くの事業所で採用されています。特に高年齢者の雇用拡大や、正社員登用制度の導入など、柔軟な採用戦略が求められる時代背景が見受けられます。
さらに、情報通信技術(ICT)への設備投資も、人手不足解消の手段として注目されています。調査によると、事業所の7割弱が「業務効率の向上」にICT設備投資が効果を発揮していると答えており、約3割が「人手不足の解消」にも寄与しているとしています。具体的には、社内用プログラムの導入や受発注データの一元管理、自動発注システムの導入が進んでおり、これが業務の効率化に大きく貢献しているといえます。
一方で、賃上げも人材確保において重要な役割を果たしています。正社員の賃上げ率に関しては、「3%以上」の賃上げを行った事業所が41.6%に上り、特に「3〜5%未満」の賃上げを行った事業所が29.0%と高い割合を示しています。パート・アルバイトにおいても、過去1年間で「3%以上」の賃上げを行った事業所が50.8%に達しており、賃金の引上げが人材確保の重要な手段として機能していることが明らかです。
また、調査では、離職率が低い事業所ほど従業員の不足感が低く、逆に離職率が高い事業所ほど人手不足を強く感じていることも分かっています。特に飲食業や宿泊業、生活関連サービス業では、離職率が高く、人手不足が深刻であることが確認されています。
このように、今回の調査結果から、国内の小売業、飲食業、宿泊業および生活関連サービス業が直面している人手不足の現状と、それに対する事業所の対応策が浮き彫りになりました。今後も人手不足が続くことが予測される中で、事業所は賃金の引上げやICT設備投資を通じて、効率的かつ持続可能な人材確保戦略を講じることが求められています。