2024年9月21日
労務・人事ニュース
労働市場のミスマッチ解消へ!リ・スキリングと省人化投資が鍵、失業率3%以下達成目指す
令和6年度経済財政白書 第2章 人手不足による成長制約を乗り越えるための課題 第2節 労働移動に係る現状と課題(内閣府)
新型コロナウイルス感染症が収束しつつある現在、企業の人手不足が再び深刻化しています。特に日本では少子高齢化と人口減少が進行しているため、労働供給に制約が生じ、経済成長が抑制される可能性が指摘されています。この状況において、労働市場の資源配分を効率化し、セクター間の労働移動を促進することが求められています。労働移動が円滑に行われることで、限られた労働力をより生産性の高い部門へ配分し、経済全体の効率性を向上させることが期待されています。
労働市場のミスマッチは、企業側の人手不足感と失業率の関係を示すUV曲線を通じて確認されます。1990年代以降、日本の労働市場ではミスマッチが深刻化し、企業の求人と労働者のスキルや希望が一致しない状況が続いています。しかし、2010年代後半には需給の改善が見られ、コロナ禍で一時的に悪化したものの、近年は再び改善傾向にあります。とはいえ、依然としてミスマッチ失業や摩擦的失業が存在し、これが労働移動の大きな課題となっています。
特に日本においては、失業率が相対的に低い一方で、一度失業するとその状態が長期化する傾向が強いです。OECD諸国と比較しても、平均失業期間が長く、失業状態が続くリスクが高い構造となっています。さらに、労働市場におけるマッチング効率性は、他の先進国と比べて低い水準にあります。例えば、アメリカでは失業者の約8割が1か月以内に再就職するのに対し、日本ではその割合が3割程度に留まっています。
このような状況を打開するためには、リ・スキリング(再教育)や省人化投資の推進が重要です。過剰供給となっている職種から不足している職種への労働移動を促進することが、資源配分の効率化に寄与します。ジョブ型人事制度の導入も一つの解決策とされています。これは、企業が求めるスキルや仕事内容を明確にすることで、求職者が自分に必要なスキルを把握し、リ・スキリングに取り組みやすくなる効果が期待されます。
また、事務職や販売職など、過剰供給が指摘される職種では、今後デジタル技術やAIの導入が進むことで、さらなる労働需要の低下が予想されます。既に多くの企業が書類作成やスケジュール調整などの業務を自動化しており、これに伴い事務職の需要が減少する可能性があります。このため、これらの職種に従事する労働者に対しては、他の職種へのリ・スキリングが特に重要です。
一方、サービス業や建設業、生産工程、輸送・機械運転といった職種では労働力不足が深刻であり、これらの分野における人材確保が課題となっています。賃金の引き上げや省力化投資を通じて生産性を向上させ、少ない人手で高い成果を上げることが求められます。こうした動きが進むことで、賃金の引き上げが難しい企業や生産性向上に取り組む余力のない企業は市場から淘汰される可能性もありますが、全体として労働市場の効率性が高まり、生産性の向上につながると考えられます。
さらに、労働市場のミスマッチ改善には、地方創生の取り組みも重要です。現在、大都市圏では職種間のミスマッチが深刻で、特に東京圏では労働力の過剰供給が問題となっています。三大都市圏には日本の総人口の約53%が集中しており、この地域におけるミスマッチの改善が、全国的な労働市場の改善に大きく貢献することが期待されます。デジタル化を推進し、地理的な制約を取り払い、地方での雇用機会を創出することが求められています。
産業間の労働移動に関しては、日本では2000年代を通じて労働移動が減少傾向にあります。特に製造業からの労働移動が少なく、逆に医療・福祉や専門技術部門では労働力の変動が大きくなっています。これらの分野は生産性が低く、労働集約的な性質が強いため、労働力の維持が難しい状況です。一方で、製造業など生産性が高い分野では労働力の変動が少なく、これが労働市場全体の効率性を低下させる要因となっています。
今後、日本が労働市場の効率化を図るためには、成長分野への労働移動を促進し、生産性の低い部門から高い部門へのシフトを進める必要があります。そのためには、政府と企業が協力し、リ・スキリングや職業訓練の充実を図るとともに、労働力の流動性を高める政策が不可欠です。特にデジタル技術の進展に伴うリスキリングの推進が、今後の日本経済の成長力を支える鍵となるでしょう。
⇒ 詳しくは内閣府のWEBサイトへ