2024年12月17日
労務・人事ニュース
北九州市で進む逆線引き計画、対象面積1,160ヘクタールの縮小と住民2,656件の反発意見をどう乗り越えるか
村山 顕人様に「人口減少・気候変動に適応する土地利用計画の実態と課題」について、ご講演いただきました(財務省)
日本は、急速に進行する人口減少と気候変動という、現代社会が直面する最も深刻な課題の二つに直面しています。この二つの課題は、都市計画や土地利用政策のあり方に根本的な再検討を迫っており、持続可能で災害に強い都市づくりが求められています。その中でも、注目を集めているのが「逆線引き」と呼ばれる新しい土地利用の考え方です。
逆線引きは、都市計画区域内の市街化区域を市街化調整区域に編入することを指します。この手法は、人口が減少し災害リスクが高まる中、住民の安全を確保しつつ、無秩序な土地開発を抑えることを目的としています。特に災害リスクが高い地域を対象とする逆線引きは、近年の豪雨災害や土砂災害を受け、国土交通省を中心に推進されています。
福岡県北九州市はその代表例の一つで、当初、約1,160ヘクタールを対象に逆線引きの計画を立案しました。しかし、住民からの反発や懸念が多く寄せられ、最終的には大幅に縮小されました。この背景には、逆線引きが持つ「資産価値の低下」や「住環境の悪化」といったデメリットが大きく影響しています。同市では、特に住宅地における住民の反発が顕著であり、「移住が強制されるのではないか」という不安が広がりました。一方、農地や低未利用地を対象とする逆線引きについては、比較的スムーズに進行しています。
広島県では、平成26年の広島豪雨を契機に、土砂災害特別警戒区域を逆線引きの対象として位置付け、対象区域の細分化を進めています。同県では、約10,000箇所を対象に逆線引きが検討されており、その平均面積は約0.12ヘクタールと小規模です。このような緻密な土地管理は、災害リスクの高い地域を効果的に市街化調整区域に移行させるための重要な手段となっています。
また、京都府舞鶴市では、農地や低未利用地を中心に逆線引きを実施しており、この地域の特性に適応した取り組みが進められています。同市の逆線引きの平均面積は約6.45ヘクタールであり、広島県や北九州市とは異なるアプローチが取られています。
気候変動は、日本の土地利用計画において極めて重要な要素となっています。特に洪水や高潮といった水害リスクが高まる中、低層住居専用地域における対策が急務とされています。全国で浸水深が3メートル以上に達すると想定される地域には、約64万人が居住しており、その多くが都市部に集中しています。この問題を解決するためには、土地利用計画の見直しとともに、技術的な対策も求められます。
東京都葛飾区や神奈川県横浜市港北区の一部地域では、建物の嵩上げや耐水化、さらには容積率の割増などの施策が検討されています。これらの地域は、既存の住民を保護しつつ、将来的な居住環境の改善を図る必要があります。例えば、東京都葛飾区の鎌倉・細田地区では、3メートル以上の浸水リスクが予測されており、この地域には約8,000人が居住しています。こうした地域での適切な対応は、土地利用計画全体の成功に大きく寄与します。
また、気候変動の影響で猛暑日が増加する中、都市部の温熱環境の改善も課題です。緑地の整備やクールスポットの設置といったグリーンインフラの導入が進められていますが、その実現には長期的な視点と多様な主体の協力が必要です。
逆線引きや気候変動に対応した土地利用計画を進める上で、住民との合意形成は欠かせません。しかし、特に住宅地においては住民の反発が強く、その多くが資産価値の低下や移住の強制といった懸念に基づいています。北九州市では、住民からの意見として「地域の過疎が進むのではないか」「住環境が悪化するのではないか」といった声が多く寄せられました。
こうした課題を解決するためには、自治体が住民に対してより丁寧な説明を行い、意見を取り入れる仕組みを強化する必要があります。また、地域の特性に応じた個別の対策を講じることで、住民の納得を得ることが重要です。例えば、京都府舞鶴市では、地域の自治組織との連携を強化し、住民意見を反映した土地利用計画を策定しています。
日本が直面する人口減少と気候変動の課題は、土地利用計画や都市計画に新たな視点をもたらしています。逆線引きや気候変動への対応は、地域ごとの特性や住民の意見を尊重しつつ、持続可能な都市づくりを実現するための重要な手段です。自治体、住民、専門家が一体となり、これらの取り組みを進めることで、より安全で住みやすい未来を築くことが期待されます。
⇒ 詳しくは財務省のWEBサイトへ