2024年10月14日
労務・人事ニュース
国際海運業界の未来を左右するGHG削減規制、2050年目標達成に向けた条約改正の全貌
国際海運からのGHG削減のための新たなルールの合意に向けた交渉が継続 ~国際海事機関 第82回海洋環境保護委員会(9/30~10/4)の開催結果~(国交省)
令和6年10月7日、国際海運からの温室効果ガス(GHG)削減を目的とした新たなルールに向けた交渉が続けられています。今回の交渉は、英国ロンドンで開催された第82回海洋環境保護委員会(MEPC 82)の結果として発表されました。この会合は、2023年9月30日から10月4日にかけて行われ、今後の海運業界におけるGHG削減に関する重要な審議が行われました。
まず、国際海事機関(IMO)が策定した「2023 IMO GHG削減戦略」に基づき、国際海運業界は「2050年頃までにGHG排出をゼロにする」との目標を掲げています。また、2030年までにゼロエミッション燃料の使用割合を5~10%に引き上げることも目指しており、今回の会合ではこれらの目標を実現するための具体的な方策が議論されました。
今回のMEPC 82では、日本が欧州諸国と共同提案した、船舶からのGHG強度(エネルギー当たりのGHG排出量)を規制する制度や、GHG排出に課金してゼロエミッション燃料船への補助金を提供する経済的手法について審議されました。この審議の結果、各国の提案をまとめた条約改正案が作成されました。しかし、今後も更なる検討が必要とされており、特にGHG強度の計算方法や規制水準、柔軟性措置といった点が引き続き議論の焦点となるでしょう。
この柔軟性措置とは、GHG規制を達成できなかった船舶が他の船舶と達成分を融通する仕組みや、未達成時に拠出金を支払うといった代替手法を指します。また、途上国関連航路においては規制の適用を緩和するべきかどうかも引き続き検討が行われます。一方で、GHG排出に課金する制度そのものに対して反対意見も存在し、こちらについても引き続き議論が行われる予定です。次回の会合は来年4月に予定されており、条約改正案の最終的な承認に向けた交渉が行われる見通しです。
このMEPC 82で議論されたのはGHG削減だけではありません。NOxやSOxといった大気汚染物質の排出規制海域に、カナダの北極海域やノルウェー海域を新たに追加することも話し合われました。この改正案は2026年3月1日に発効予定となっており、今後の船舶運行に大きな影響を与えるでしょう。また、船舶のバラスト水管理に関する規制も見直されることとなり、船舶のバラスト水処理設備が適切に運用されているかどうかの確認方法や、その性能を維持するための対策についても検討されました。この議論は来年4月の会合に向けて通信部会で継続されることが決まりました。
今回の国際会議で示された議論は、今後の海運業界にとって重要な転換点となるでしょう。特に、GHG削減に向けた新たなルールの導入は、国際的な環境政策に大きな影響を与えることが予想されます。2050年に向けたGHG排出ゼロの目標は、世界中の海運業者にとって非常に高いハードルとなりますが、これを達成するためには国際的な協力が不可欠です。各国の提案や議論を踏まえた条約改正案が、次回の会合でどのように具体化されるかが注目されます。
また、NOxやSOxの規制強化によって、各国の船舶運行ルールが厳格化されることで、環境への影響が抑えられるだけでなく、船舶の運航効率も求められることになります。これにより、新たな技術革新が促進され、エコシップやゼロエミッション船の普及が進むと期待されます。
一方で、バラスト水規制に関しては、現在も多くの船舶がこの管理を適切に行えていない現状があり、今回の議論を通じてその改善が求められています。特に、バラスト水処理設備の維持管理に関する具体的な指針が求められており、これが海洋環境の保全に直接的な影響を与えることになるでしょう。
今回のMEPC 82での議論は、世界各国が協力して海運業界の持続可能な発展を目指す姿勢を示したものといえます。GHG削減に向けた具体的な条約改正案や新たな規制の導入は、各国がそれぞれの経済状況や産業構造を考慮しつつ、柔軟な対応を求められるものです。しかし、これらの規制が導入されれば、環境保全と経済成長を両立させる新たなモデルが構築されることが期待されます。
最後に、企業の採用担当者が注目すべき点として、これからの海運業界はゼロエミッション船や環境技術の導入が進むことで、新たな技術者や専門家の需要が高まることが予想されます。環境規制の強化に伴い、技術革新をリードする人材が必要とされる時代が到来しているのです。
このような環境変化に適応するために、各企業は持続可能な運用体制の構築と、それを支える人材の育成に注力する必要があります。特に、2050年に向けた長期的な視点での人材確保が求められるでしょう。
⇒ 詳しくは国土交通省のWEBサイトへ