2024年9月16日
労務・人事ニュース
地域経済を活性化する無形資産の力:社会インフラとの連携で生産性を20%向上
無形資産は社会資本の生産力効果を高めるか―社会資本データ、R-JIPデータベース及び地域間産業連関表を利用した推計―(内閣府)
日本における社会インフラと無形資産の相互作用に関する研究は、地域経済の発展や災害からの復興において極めて重要な示唆を提供します。特に、社会インフラの整備が地域の生産性向上にどのように寄与するかについての分析は、政策立案者にとって重要な課題です。本研究は、これまでの研究に新たな視点を加え、無形資産が社会インフラの外部性に与える補完的な役割を評価しています。
まず、社会インフラの定義について考察します。従来の社会インフラとは、道路や港湾、空港などの物理的な構造物を指していましたが、21世紀に入り、技術的な知識やソフトウェアといった無形資産が新たな社会インフラとして注目されています。これら無形資産は、単に公共部門の効率化に寄与するだけでなく、地域の生産性や経済活力を高める役割を担っています。例えば、日本における高速道路の料金収受システムであるETCは、効率的な料金収受を実現し、高速道路サービスの生産性を向上させています。また、欧州で開発されたMaaS(Mobility as a Service)システムの導入により、交通手段の統合が進み、さらなる生産性向上や環境改善が期待されています。
これまでの研究は、主に公共インフラがもたらすスピルオーバー効果に注目してきました。スピルオーバー効果とは、特定の地域で整備されたインフラが、その地域内の企業活動にとどまらず、他の地域にも波及する効果を指します。従来のスピルオーバー効果の測定は、地域間の物理的な距離に基づいていましたが、本研究では都道府県間の取引量を考慮した新しいスピルオーバー効果の測定方法を導入しています。これにより、地域間の経済的なつながりが生産性に与える影響をより正確に評価することが可能となりました。
分析の結果、無形資産と社会インフラの相互作用が生産性向上に寄与することが確認されました。しかし、地方の公共部門における無形資産の割合は、都市部や民間部門に比べて依然として低いままであり、このことが地方の経済成長の足かせとなっている可能性が示唆されています。特に、無形資産が十分に活用されていないため、社会インフラ自体の効果が十分に発揮されていない状況が浮き彫りになっています。これは、COVID-19パンデミック時に日本政府の対応が遅れた原因の一つとしても考えられます。公共部門におけるデジタル化の遅れが、迅速かつ効果的な対応を阻んだ可能性が高く、無形資産の蓄積が今後の課題となるでしょう。
また、災害復興においても社会インフラの役割は重要です。東日本大震災や熊本地震といった大規模災害後の復興プロセスでは、社会インフラの迅速な復旧が地域の生産性回復に大きく寄与しています。例えば、被災地の漁港ではデジタル化が進められ、生産性の向上が図られました。このような事例からも、無形資産と社会インフラの連携が、災害復興において重要な役割を果たすことが明らかです。
本研究の結果から、政策的な示唆として、地方自治体は無形資産の蓄積と効果的な活用に力を入れるべきであることが示されています。デジタル化の進展は、単にICT機器やソフトウェアの導入だけでなく、それらを効果的に活用する体制の構築が必要です。例えば、地方自治体が民間企業からの提出書類をデジタル化するシステムを構築することで、行政手続きが効率化され、地域の生産性向上に寄与するでしょう。
さらに、無形資産の役割は、企業や政府がソフトウェアを資産として蓄積するだけでなく、クラウドサービスやオンライン会議ツール、生成AIなどの新しい技術を活用することにも関連しています。これらの技術は、従来の資産として計上されない支出として捉えられることが多く、今後はこれらの費用も含めたデータの収集と分析が求められます。これにより、社会インフラと無形資産の相互作用がより正確に評価され、生産性向上への貢献度が明らかになるでしょう。
結論として、本研究は、日本の地域経済における社会インフラと無形資産の役割を再評価し、政策的な示唆を提供しています。無形資産と社会インフラの効果的な連携は、地方経済の活性化にとって不可欠であり、今後の政策立案において重要な考慮事項となるでしょう。
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