2024年9月3日
労務・人事ニュース
大分労働局、個別労働紛争の相談件数3,151件と急増、16.4%増の背景
令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況について(大分労働局)
令和5年度に大分労働局が取りまとめた個別労働紛争解決制度の施行状況について、詳細に解説します。この制度は、個々の労働者と事業主との間で発生する労働条件や職場環境に関するトラブルを未然に防ぎ、迅速かつ適切に解決するために設けられたものです。制度は大きく3つの方法で構成されており、「総合労働相談」、「助言・指導」、そして「紛争調整委員会によるあっせん」があります。
まず、「総合労働相談」について見ていきましょう。この相談窓口は、大分労働局と県内の労働基準監督署内に設置されており、労働に関するあらゆる問題についてワンストップで対応するために設けられています。令和5年度には、この総合労働相談コーナーに寄せられた相談件数は9,051件に上り、前年の8,515件から増加しています。特に注目すべきは、「民事上の個別労働紛争」として分類される相談件数が3,151件に達し、これは前年度から16.4%の増加を示しています。この「民事上の個別労働紛争」には、労働条件の変更、解雇、退職勧奨、いじめ・嫌がらせといった、労働者と事業主の間で直接的に対立する問題が含まれます。
この「民事上の個別労働紛争」の中で最も多かったのは、「いじめ・嫌がらせ」に関する相談で、全体の20.7%にあたる712件が寄せられました。これに次いで、「自己都合退職」に関する相談が687件(20.0%)、「退職勧奨」が382件(11.1%)、「その他の労働条件」が332件(9.7%)と続いています。「解雇」に関する相談も299件(8.7%)寄せられており、これらの数字からも、多くの労働者が職場において深刻な問題に直面していることが明らかです。特に、「いじめ・嫌がらせ」は前年から13.6%増加しており、職場内でのハラスメント問題が依然として根深い課題であることが示されています。
次に、「助言・指導」についての状況を説明します。令和5年度における助言・指導の申出件数は52件であり、これは前年の85件から大幅に減少しました(38.8%減)。助言・指導の内容については、「その他の労働条件」に関するものが最も多く13件(18.8%)、次いで「いじめ・嫌がらせ」が12件(17.4%)、「労働条件の引下げ」が8件(11.6%)でした。この助言・指導は、労働局長が紛争当事者に対して問題の解決に向けた具体的な方向性を示すものであり、当事者間の自主的な解決を促進する役割を果たしています。
例えば、「いじめ・嫌がらせ」に関する具体的な事例として、ある申出人が中途入社の正社員として働いていた際に、年上のパート社員から適切でない言葉遣いでの嫌がらせを受けていたケースがありました。この申出人は、会社に対して改善を求めたものの、適切な対応が取られなかったため、労働局に助言を求めました。労働局は、事業主に対して法律に基づく適切な措置を講じるよう助言し、その結果、パート社員に対して懲戒処分が行われ、ハラスメント行為が停止されました。
また、「自己都合退職」に関する助言の事例では、申出人が1か月前に自己都合による退職を上司に申し出た際に、上司から退職日を1週間後に変更するよう強制されたケースがありました。この申出人は、退職日が変更されることで収入が大幅に減少するため、労働局に助言を求めました。労働局は、上司には退職日を決定する権限がないことを確認し、申出人と再度話し合いを行うよう助言しました。その結果、申出人は希望通りの退職日で退職することができ、事業主は再発防止のために管理者教育を実施しました。
最後に、「紛争調整委員会によるあっせん」について説明します。この制度は、労働問題に関する専門家である弁護士や大学教授などから成る紛争調整委員会が、当事者間の話し合いを促進し、紛争の解決を図るものです。令和5年度には、13件のあっせん申請が受理され、前年の7件から増加しました。あっせんの結果としては、8件が合意に達し、紛争が解決されましたが、5件は意見の隔たりが大きく、合意に至らずあっせんが打ち切られました。
例えば、ある退職勧奨に関するあっせん事例では、申請人が有期労働契約の更新を複数回行っていたものの、事業主から突如として退職を迫られたケースがありました。申請人は退職に同意せざるを得ない状況に追い込まれ、経済的・精神的な補償を求めてあっせんを申請しました。結果として、事業主は申請人に対して和解金を支払うことで合意が成立しました。
このように、大分労働局は個別労働紛争解決制度を通じて、労働者と事業主の間で発生する様々なトラブルに対して迅速かつ適切に対応しています。これにより、労働者が安心して働ける環境の整備が進められており、職場における紛争の未然防止と解決が期待されています。企業の採用担当者や人事担当者にとっても、こうした制度の存在は、労働環境の改善やトラブルの迅速な対応に繋がる重要な要素となります。
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