2024年10月2日
労務・人事ニュース
女性医師のキャリア形成と診療科選択 外科系での男女差を解消するための取り組み
医療現場の課題 女性医師のキャリア選択と賃金格差(財務省)
医療現場における女性医師のキャリア形成と賃金格差の問題は、日本において長年にわたって議論されてきました。女性医師の数は増加しているものの、彼女たちが直面するキャリアの選択や賃金の問題には依然として多くの課題が残されています。この問題を理解するためには、医療現場におけるジェンダーの違いや、働き方に関する社会的な期待、そして専門医資格取得における男女差について深く掘り下げる必要があります。
まず、日本における女性医師の割合は年々増加しています。1994年には30代から40代の医師に占める女性の割合は12%に過ぎなかったのに対し、2016年には28%まで増加しました。しかし、女性医師が選択する診療科には偏りが見られ、特に外科系診療科において女性医師の割合は低いままです。例えば、外科では40歳未満の女性医師の割合はわずか18.8%であり、65歳未満ではさらに9.9%まで減少しています。一方、産婦人科や小児科、麻酔科といった診療科では女性医師の割合が高く、40歳未満では産婦人科が63.3%、小児科が42.9%、麻酔科が52.9%といった具合です。これらの診療科は、女性医師が比較的選択しやすい分野として知られていますが、外科や脳神経外科、整形外科など、肉体労働や長時間勤務が求められる分野では、女性医師の割合が依然として低い状況が続いています。
女性医師のキャリア形成において重要なポイントの一つは、初職診療科の選択とその維持率です。男性医師に比べて、女性医師は初職診療科を維持する割合が低い傾向にあります。例えば、外科では男性医師の87%が初職診療科を維持するのに対し、女性医師では6%低い割合となっています。この傾向は、脳神経外科や整形外科、泌尿器科などの診療科でも同様です。一方で、女性医師の多い診療科では初職診療科の維持率が高く、例えば産婦人科では男性医師の87%に対し、女性医師は1%高い維持率を示しています。
さらに、専門医資格の取得においても男女差が存在します。男性医師の方が女性医師よりも専門医資格を取得する割合が高く、特にサブスペシャリティ領域においてはその差が顕著です。外科や脳神経外科、泌尿器科といった男性比率の高い診療科では、女性医師が専門医資格を取得する割合が男性に比べて低くなっています。このような状況は、医師としてのキャリア形成において、女性が直面する障壁の一端を示しています。
2004年に導入された新臨床研修制度(スーパーローテート研修)は、こうした男女差を是正するための一つの施策として期待されました。この制度では、研修医が複数の診療科を経験することが義務付けられており、これにより女性医師が敬遠しがちであった外科系診療科にも触れる機会が増えました。この制度の導入により、初職診療科として外科を選ぶ女性医師が2.7%ポイント増加し、泌尿器科を選ぶ女性医師も1.5%ポイント増加しています。この変化は、女性医師が新たなキャリアパスを模索するきっかけとなり、外科系診療科における女性医師の増加にもつながっています。
しかし、依然として女性医師が選択する診療科には限界があります。例えば、整形外科は肉体労働的な要素が強いため、女性医師の選択率はほとんど増加していません。また、内科や眼科といった診療科においては、女性医師が初職診療科として選ぶ割合が減少していることが確認されています。このように、新臨床研修制度の導入によって一定の変化が見られるものの、根本的な男女差の解消には至っていないのが現状です。
さらに、女性医師のキャリアにおいては、労働時間の長さも重要な課題です。女性医師は、男性医師に比べて勤務時間が短い診療科を選ぶ傾向があります。例えば、1970年生まれの女性臨床研修医は、男性に比べて平均で2.0時間短い診療科を選んでおり、1980年生まれではその差が1.3時間に縮小しているものの、依然として男女差が存在します。これは、家庭の役割分担や育児に関する社会的な期待が、女性医師の働き方に影響を与えていることを示唆しています。
また、長期的なキャリア形成においても、女性医師は男性医師に比べて不利な立場に置かれることが多いです。例えば、乳腺外科のような女性患者が多い分野では、女性医師の割合が増加しているものの、消化器外科や心臓血管外科、呼吸器外科といった他の外科系分野では、女性医師の割合は依然として低いままです。これらの分野での女性医師の増加は、今後の課題として残されています。
医療現場におけるジェンダーの不平等を是正するためには、女性医師がキャリアを継続しやすい環境を整備することが不可欠です。具体的には、柔軟な勤務形態の導入や、育児休業後の復職支援、そしてキャリア形成初期段階からの支援が求められます。また、診療科選択における男女差を解消するためには、外科系診療科への女性医師の参入を促進するための施策も必要です。これにより、医療現場におけるジェンダーの多様性が促進され、より包括的な医療提供が可能になると期待されます。
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