2024年10月8日
労務・人事ニュース
子ども期の貧困が大学進学に及ぼす影響―88.6%が非貧困、進学率には明確な差
子ども期の貧困経験履歴と大学進学 ―『21 世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)』を用いた分析―(社人研)
この研究は、日本における子ども期の貧困経験が、彼らの教育達成、特に大学進学にどのような影響を与えるかを明らかにするために行われました。21世紀出生児縦断調査(2001年に生まれた子どもたちを追跡する大規模パネルデータ)を用いて、6つの異なる時点における貧困経験を分析し、その経験が大学進学に与える影響を検討しています。これらの分析は、日本の社会経済における貧困の動態を理解し、教育格差を是正するための重要な知見を提供しています。
まず、調査データの分析により、子どもたちの貧困経験は大きく4つのグループに分類されました。最も大きなグループは「非貧困持続」グループで、これは全体の88.6%を占めています。このグループの子どもたちは、出生から青年期にかけて、ほとんど貧困を経験していません。次に大きなグループは「貧困脱出」グループで、幼少期に貧困を経験するものの、その後は貧困状態から脱していく子どもたちです。このグループは全体の6.0%を占めています。第三のグループは「貧困突入」グループで、これは後年(青年期に近づくにつれて)貧困状態に陥る子どもたちで、全体の2.9%を占めます。最後のグループは「貧困持続」グループで、出生から青年期にかけて持続的に貧困を経験している子どもたちです。このグループはわずか2.5%ですが、彼らの教育達成には大きな影響を与えています。
次に、各グループの子どもたちがどのような教育達成を遂げたか、特に大学進学率に注目して分析が行われました。調査によると、貧困を経験しなかった「非貧困持続」グループの子どもたちの大学進学率は63.4%でした。これは日本の平均的な大学進学率とほぼ同水準か、やや高い水準を示しており、家庭の経済状況が安定していることが、子どもたちの教育達成にプラスの影響を与えていることがわかります。
一方で、幼少期に貧困を経験し、その後脱した「貧困脱出」グループでは、大学進学率は43.0%にとどまりました。このグループの子どもたちは、幼少期に経済的な困難を経験しているため、その影響が長期的に続いている可能性が高いです。貧困から脱したとしても、早期の生活環境の影響が進学意欲や学業成績に影響を与え、進学率を押し下げていると考えられます。
さらに、「貧困突入」グループでは、大学進学率が39.1%と、より低い数値が示されました。このグループの子どもたちは、幼少期には比較的安定した家庭環境にありましたが、青年期に入るとともに経済的な困難に直面し、進学の選択肢が制限されることになります。特に、進路選択の時期において経済的な支援が不足していることが、進学率に悪影響を与えていると考えられます。
最も深刻な結果が見られたのは、「貧困持続」グループで、彼らの大学進学率は35.4%と、全体の中で最も低い数値を示しています。出生から青年期にかけて継続的に貧困を経験しているため、経済的困難が日常的に続き、進学に必要な資源やサポートを得ることが困難だったと推測されます。このグループに属する子どもたちは、学業面だけでなく、精神的・社会的にも多くの課題を抱えている可能性があり、教育機会の格差が非常に顕著に現れています。
こうした結果から、日本においても貧困が子どもたちの教育達成に長期的な影響を与えていることが明らかになりました。特に、進路選択の時期において経済的に困窮している家庭に対する支援策が不十分であることが、教育格差の拡大に寄与していると考えられます。貧困を経験した子どもたちが十分な教育を受けるためには、早期の支援だけでなく、青年期における継続的なサポートが必要です。
また、大学進学率における格差を是正するためには、貧困の持続期間やその発生時期に応じた支援策が求められます。貧困経験が一時的なものであっても、その影響が長期にわたって残る場合があるため、支援策は一度きりのものでなく、ライフステージごとに適切に提供される必要があります。特に、青年期に貧困を経験した子どもたちに対しては、進学の選択肢を広げるための経済的支援や学業支援が欠かせません。
この研究は、子ども期の貧困が社会全体の教育格差にどのように影響を与えるかを具体的に示しており、政策立案者にとって貴重な知見を提供しています。教育の機会均等を実現するためには、貧困家庭の子どもたちへの支援を強化するだけでなく、その支援が持続的かつ包括的に行われることが重要です。これにより、子どもたちが家庭の経済状況に関わらず、将来の選択肢を広げることができ、社会全体としての教育格差の是正が期待されます。
⇒ 詳しくは国立社会保障・人口問題研究所のWEBサイトへ