2024年9月21日
労務・人事ニュース
家計資産1京2650兆円 家計の7割が55歳以上、企業が直面する若年層の資産形成の課題
令和6年度経済財政白書 第3章 ストックの力で豊かさを感じられる経済社会へ 第1節 家計の金融資産投資構造の現状と課題(内閣府)
令和6年度の年次経済財政報告において、我が国の総資産は過去最高の水準に達しており、その増加率は約1.5倍となっています。1994年末時点での総資産は約8600兆円でしたが、2022年末時点では1京2650兆円まで拡大しました。このような資産の増加は、国内の企業や個人の投資活動においても大きな影響を与える可能性があります。
具体的には、企業の設備投資や住宅関連資産の保有が資産の大きな部分を占めており、家計部門においては全体で約3240兆円の資産が存在しています。そのうち約1160兆円が住宅関連の資産で、2030兆円が金融資産です。これらのデータからもわかるように、企業が個人からの資金を効果的に引き出し、成長のための投資に活用することが重要です。
金融資産の中でも特に注目されているのが、「貯蓄から投資」へのシフトです。日本の家計は従来、現金・預金を中心に金融資産を保有しており、株式や投資信託などのリスク性資産への投資が欧米に比べて低いことが特徴です。しかし、最近の動向として、少額からでも投資を始めるための環境整備が進みつつあります。特にNISA(少額投資非課税制度)の抜本的拡充により、これまで低金利環境の中でリスクを避けてきた家計に対しても、投資行動を促進する仕組みが整っています。
2024年3月末時点で、日本の家計部門の金融資産は約2200兆円に達しており、その増加の主な要因は現金・預金の寄与度が高いことです。家計の現金・預金は、コロナ禍における政府の給付金政策や外出自粛による消費の抑制が影響して急増しました。これに対し、米国の家計金融資産は同時期に122兆ドルと、日本の1.6倍のペースで増加しており、株式や投資信託などリスク資産の割合が大きいのが特徴です。
こうした家計の金融資産の保有構造は、企業の資金調達にも影響を与えています。日本の企業は、家計からのリスクマネーの供給が限定的であり、これが投資の制約要因となる場合があります。結果として、企業の成長を通じて配当やキャピタルゲインとして家計に還元されるサイクルが十分に機能していない現状があります。
このような状況を打破するためには、金融資産の有効活用が必要です。日本政府は、NISAの恒久化をはじめとした制度改革を進めており、これにより若年層を含めた幅広い世代にリスク性資産への投資を促進する動きが加速しています。特に若年層に対しては、長期的に収益性の高い資産形成を進めるための教育や情報提供が重要です。
さらに、日本の家計資産の特徴として、高齢層に資産が偏在していることも挙げられます。2024年3月末時点で、55歳以上の層が金融資産の約7割を保有しており、特に70歳以上の高齢者が占める割合が大きいです。これに対し、40歳未満や40~54歳の現役世代の金融資産保有割合は非常に低く、若年層への資産移転が進んでいないことが課題となっています。
このような状況を改善するためには、高齢層が保有する資産を若年世代に移転するための仕組みづくりが必要です。現行の相続税制度では、資産移転の時期や方法に制約があり、高齢者が資産を消費に使わずに遺産として残す傾向があります。これに対して、政府は教育資金の一括贈与に係る非課税措置など、若年世代への資産移転を後押しする制度を導入していますが、さらなる改革が求められます。
企業の採用担当者にとっては、こうした家計金融資産の動向や、リスク性資産への投資促進が企業の成長に与える影響を把握することが重要です。若年層に対する資産形成の促進が成功すれば、将来的に労働市場にもポジティブな影響をもたらす可能性があります。例えば、若い世代がリスク性資産に積極的に投資し、資産を増やすことで消費意欲が高まり、企業の売上や利益に寄与することが期待されます。
企業が持続的に成長するためには、投資家からの資金調達を円滑に行うことが不可欠です。そのためには、個人投資家の関心を引き付け、株式や債券への投資を促すための企業戦略が求められます。企業の財務状況や成長見通しを適切に開示し、透明性を高めることが、投資家の信頼を得るための重要な要素となります。
また、採用活動においても、若年層の資産形成や投資行動に対する理解を深めることが必要です。新たな社員が経済的な安定を感じ、積極的に働く環境を整えることで、企業の生産性向上につながります。特に、リスク性資産への投資をサポートする企業福利厚生や研修プログラムの導入は、若手社員のモチベーション向上に寄与するでしょう。
⇒ 詳しくは内閣府のWEBサイトへ