2025年1月19日
労務・人事ニュース
少子化時代における採用難を克服するための「時間とお金」
人口問題研究 第80巻第4号(国立社会保障・人口問題研究所)
近年、日本社会が直面している少子化問題は、単なる人口減少にとどまらず、国民生活や経済に深刻な影響を与えています。この課題を解決するために、国立社会保障・人口問題研究所が2023年に実施した「第16回出生動向基本調査」の結果や、第28回厚生政策セミナー「時間と少子化」の報告内容が示すデータと分析は、重要な指針となります。少子化の背景には、結婚・出産に関する社会的・経済的な負担が大きく関与しており、具体的な対策が求められています。
調査結果によれば、日本の育児期の男女の生活時間には大きな差が存在しています。女性は平均して一日250分以上を家事・育児などの無償労働に費やしており、男性の約30分と比べて圧倒的に多い状況です。また、仕事に充てる時間が長すぎるため、家族や家庭生活への時間が制約されると回答する人が多く、特に働く女性は「自由な時間を持てない」との声が顕著でした。こうした現状は、男女平等の観点からも、出生率の向上に向けた社会的支援の重要性を浮き彫りにしています。
さらに、少子化問題は経済的な側面とも密接に関連しています。調査では、子ども一人あたりにかかる教育費が0歳から大学卒業までに総額1000万円を超える場合が多いことが示されています。特に私立学校に通わせる場合、その額は2500万円にも達することが分かっています。一方で、家庭の可処分所得はここ数年で減少傾向にあり、収入と支出の不均衡が子育てにおける経済的負担をさらに強めています。これに対し、政府は児童手当や幼児教育の無償化、高等教育の支援策などを展開していますが、現状では十分な効果を発揮しているとは言い難い状況です。
少子化の背景には、育児や家族形成に対する価値観や時間の使い方に関する社会的な変化も影響しています。「人生のラッシュアワー」と表現される20代後半から30代後半は、キャリア形成と家庭生活が重なる重要な時期です。しかし、こうした時期において、出産や育児を選択する女性の多くが仕事を続ける難しさを感じている現実があります。実際、第1子出産後に仕事を辞める女性の割合は依然として高く、これが女性のキャリア形成や家庭の経済的基盤に影響を与える要因となっています。
国際比較の視点では、日本はフランスやスウェーデンといった比較的出生率が高い国と比べて、「家族や個人を優先したい」という希望が現実と一致しない状況が目立ちます。特に、日本では長時間労働文化が根強く、家庭生活に充てる時間が限られる傾向があります。こうした文化的背景が、少子化の一因となっている可能性があります。
では、どのような対策が効果的なのでしょうか。セミナーで示されたポイントの一つに「時間の使い方を再考する」ことが挙げられています。たとえば、フレックスタイム制度や在宅勤務の推進、男性の育児休暇取得率の向上など、柔軟な働き方改革が必要です。また、家事や育児の負担を軽減するための支援策、例えば保育サービスの拡充や無償化、さらには地域社会による支援ネットワークの整備も重要です。
少子化の克服には、経済的支援だけでなく、社会全体で子育てを支える仕組みの構築が求められます。そのためには、政府や企業だけでなく、地域社会や個人レベルでの意識改革が欠かせません。少子化問題を解決することは、単に人口を増やすことにとどまらず、持続可能な社会を実現するための基盤づくりにつながります。今後もデータに基づいた政策の立案と実施が期待されます。
⇒ 詳しくは国立社会保障・人口問題研究所のWEBサイトへ