2024年9月23日
労務・人事ニュース
日本の中小企業が直面する人手不足と賃金上昇の相関、欠員率1%増加で賃金が1.9%上昇
令和6年版 労働経済の分析 -人手不足への対応- 第1章 人手不足の背景(厚労省)
日本の労働市場における賃金上昇と労働力不足の関係は、現在、注目を集めているテーマの一つです。特に、労働者の欠員率が高まると賃金が上昇する傾向があることが、複数の研究によって示されています。欠員率とは、企業が求める労働者数と実際に雇用できている労働者数との差を示す指標であり、この値が高いほど、人手不足が深刻であることを意味します。このような状況では、企業は賃金を引き上げて労働者を確保しようとするため、欠員率の上昇と賃金上昇には強い相関が見られます。
2010年代以降、特に中小企業を中心に、人手不足が深刻化していることが確認されています。この背景には、少子高齢化の進行や若年層の労働力人口の減少が挙げられます。また、都市部への人口集中が地方の労働市場を逼迫させており、これが地域ごとの労働力需給ギャップを一層広げる結果となっています。例えば、地方の中小企業においては、これまでの縁故採用に依存する傾向が強かったものの、現代ではその枠組みが機能しにくくなっており、求人広告やハローワークなどを通じた新規採用に依存するようになっています。しかし、これによりフルタイムの求人件数はバブル期並みの水準に達しているものの、実際の就職者数はそれに追いついておらず、労働市場の不均衡が続いています。
労働力不足が賃金に与える影響を具体的に見ると、日本においては、欠員率が1%上昇するごとに賃金が1.5%から1.9%程度上昇することが確認されています。これは、日本国内の労働市場が、特に中小企業において、賃金を通じて労働力を引き付けるメカニズムが働いていることを示しています。例えば、製造業やサービス業の分野では、これまでの賃金水準では労働者を確保するのが難しくなっており、賃金上昇を余儀なくされています。一方で、大企業においても、欠員率が高まると賃金を引き上げる動きが見られますが、その上昇幅は中小企業ほど急激ではありません。これは、大企業が比較的安定した雇用条件や福利厚生を提供しているため、賃金以外の要素で労働者を引き付けられることが一因と考えられます。
さらに、パートタイム労働者の賃金水準も上昇しています。過去の統計によれば、フルタイム労働者とパートタイム労働者の時給差は2倍以上となっていますが、近年では同一労働同一賃金の原則に基づき、この差が徐々に縮小しています。それでもなお、パートタイム労働者の賃金上昇率は、フルタイム労働者に比べて低い傾向があり、このギャップの解消が今後の課題となっています。
労働力不足の解消には、賃金上昇だけでなく、他の要素も重要です。例えば、労働環境の改善やワークライフバランスの向上、そして女性や高齢者、外国人労働者の労働市場への参加促進が求められています。特に高齢者に関しては、企業の採用意欲が低いことが指摘されています。多くの企業が高齢者を採用する際に、スキル不足や健康リスクを懸念しているため、シニア層の採用に積極的ではないのです。しかしながら、今後の人口構造の変化を踏まえると、企業は高齢者や他の潜在労働力を活用するための対策を講じる必要があります。
また、賃金上昇は必ずしも生産性の向上と連動していない点にも注目する必要があります。日本国内では、生産性が1%向上するごとに賃金が0.3%から0.5%程度しか上昇しないことがわかっています。これは、アメリカやドイツと比較しても低い水準です。したがって、賃金上昇が企業の競争力を高めるためには、生産性向上に向けた取り組みが不可欠です。デジタル化や業務プロセスの効率化、さらには人材育成の強化が、今後の課題として浮き彫りになっています。
企業の採用担当者にとっては、これらのデータは重要な示唆を提供しています。採用活動においては、賃金だけでなく、労働環境の改善やスキルアップの機会提供、さらには柔軟な働き方を推進することが、求職者を引き付けるための効果的な戦略となります。特に、優秀な人材を確保するためには、競争力のある賃金水準を提示するだけでなく、労働者が安心して働ける環境を整備することが必要です。これにより、企業の生産性を向上させつつ、持続可能な成長を実現することが期待されます。
⇒ 詳しくは厚生労働省のWEBサイトへ