2024年9月22日
労務・人事ニュース
日本の65歳以上の就業者数が2035年にピーク、今後の労働供給への影響
令和6年度経済財政白書 第3章 ストックの力で豊かさを感じられる経済社会へ 第3節 高齢者就業の現状と課題~知識と経験のストック活用に向けて~(内閣府)
高齢化社会が進む日本において、労働力の確保が急務となっています。令和6年度の年次経済財政報告によると、特に60歳以上の高齢者層の労働参加率が著しく上昇しており、これは少子高齢化の影響で生産年齢人口が減少する中、日本経済の活力維持に貢献しているといえます。具体的には、1980年時点では60歳以上の高齢者の割合が13%程度だったものが、2022年には35%を超えており、今後さらに増加すると予測されています。さらに、1980年には男性の死亡年齢最頻値が80歳、女性が84歳であったのに対し、2022年には男性88歳、女性93歳と長寿化が進行しており、健康寿命もそれに伴い延伸しています。
このような状況において、高齢者の労働参加率が特に注目されているのは、日本の高齢層の就業意欲が主要先進国の中でも抜きん出て高い点です。政府の高齢者雇用促進政策の効果もあり、過去10年で高齢者の労働参加率は大きく上昇しました。特に女性の労働参加も増加しており、このことは少子化による労働力減少の中で日本の就業者数を維持するうえで重要な要素となっています。高齢者の活躍が増えることは、若い世代の労働者が子育てやスキルアップに時間を費やすことができる環境を整えるためにも有益です。
高齢者雇用に関する制度の整備は、段階的に進められてきました。1940年代後半に企業が定年制度を導入し始めた際には55歳定年が一般的でしたが、1970年代には徐々に60歳まで引き上げられました。さらに、2000年代には65歳までの継続雇用が義務化され、2021年には70歳までの就業機会の確保が努力義務として導入されています。これにより、企業の高齢者雇用の取り組みは広がり、特に定年後も継続して働ける仕組みが充実しています。2013年以降は、65歳までの継続雇用制度が完全義務化され、ほとんどの企業で実施されるようになりました。また、直近では70歳までの就業機会確保も進展しており、高齢者の就業率は年々上昇しています。
一方で、高齢者の労働参加に関してはいくつかの課題も存在しています。特に今後、労働供給に対する下押し圧力が強まると予想されます。人口構成の変化により、高齢層の中でもさらに高齢化が進むため、相対的に労働時間の短い年齢層が増加することが見込まれます。このため、社会全体で高齢者の就労意欲を阻害しないような取り組みが不可欠です。現在、高齢者の就業者数は60代が中心ですが、今後は70代以上の就業者数が拡大する見通しです。
高齢者が就業を希望する理由としては、経済的な理由が最も多く挙げられています。60代の高齢者のうち、約76%が経済上の理由から働いているとされ、その多くが生活の維持を目的としています。また、健康維持や社会参加のために働くことを希望する人も増加しており、こうした就業意欲を支えるための取り組みが求められています。さらに、日本はOECD諸国の中でも高齢者の労働参加率が非常に高く、特に65歳以上の年齢層では就業率が顕著に上昇しています。
高齢者の就業拡大により、60代の所得は増加し、それに伴い消費も拡大している点も重要です。家計調査によれば、59歳以下の世帯の所得は横ばい傾向にある一方、60代の世帯では2010年代以降、勤め先収入の増加が顕著です。高齢者の雇用確保の取り組みは、所得の押し上げを通じて消費の下支えに寄与しており、今後も高齢者の就業を促進する環境整備が経済全体の活力を維持するために重要です。
今後、2035年頃をピークに60歳以上の就業者数は減少に転じる可能性が指摘されています。団塊ジュニア世代が60代に差し掛かることで、就業者数の増加は見込まれるものの、長期的には人口減少による影響が避けられません。さらに、高齢者の就業時間が短いことや、労働投入が限られていることも潜在成長率への減少圧力となる可能性があります。こうした課題に対しては、健康寿命を延ばし、意欲のある高齢者が安心して働ける環境を作ることが重要です。
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