2024年6月25日
労務・人事ニュース
日本企業のDX取り組み実態 内向きのDXで年間10億円のコスト削減を達成
第2回デジタル部会 資料4 「企業アンケートより読み解くDXの経済的影響に関する一考」(総務省)
2024年6月14日、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)は、デジタルトランスフォーメーション(DX)が企業の経済に与える影響についての調査結果を発表しました。この調査は、企業アンケートを基にDXが労働生産性や企業の経済的成果にどのような影響を与えているかを分析しています。
近年、労働投入量の変化が日本の経済に大きな影響を与えています。高度経済成長期には、労働投入量が経済成長を支える主要な要因となっていました。しかし、現在の日本では人口減少や高齢化、非正規雇用の増加といった社会的変化に伴い、一人あたりの労働時間の減少や労働生産性の改革が求められています。特に、VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代においては、労働生産性の向上が重要な課題となっています。
DXは、企業の生産性向上において重要な役割を果たしています。DXの取り組みは、付加価値の向上、業務効率化、コスト削減など多岐にわたります。例えば、日本の企業は主にコスト削減や業務効率化といった「内向き」のDXに重点を置いています。一方、アメリカの企業は顧客を意識したビジネスモデルの変革やサービス開発強化、市場分析の強化といった「外向き」のDXに多くの予算を投じています。この違いは、DXに対するアプローチの違いを反映しています。
日本企業は内向きのDXにおいては一定の成果を上げているものの、外向きのDXではアメリカ企業に及ばない状況が続いています。具体的には、日本企業は業務効率化や内部改革に成功している一方で、付加価値の向上や新たなビジネスモデルの構築といった外向きのDXでは遅れをとっています。これは、労働生産性の国際比較でも明らかです。
労働生産性は、付加価値労働生産性と物的労働生産性の2つの側面から評価されます。付加価値労働生産性は、名目GDPを就業者数と労働時間で割ったもので、物的労働生産性は実質GDPを同様に計算したものです。企業の収益を向上させるためには、付加価値労働生産性を高める取り組みが不可欠ですが、日本の企業は物的労働生産性の向上には成功しているものの、付加価値労働生産性の向上には十分に取り組めていないのではないかという指摘があります。
物的労働生産性の向上は、GDPデフレータの下落を引き起こし、物価の引き下げにつながるため、企業の売上高が伸び悩む一因となっています。一方で、物的労働生産性が向上することで業務効率化が進み、コスト削減が実現されるため、営業利益は徐々に増加しています。このような状況から、DXの効果を正確に評価するためには、品質改善や業務効率化の具体的な成果をどのように測定するかが課題となります。
アンケート調査によると、DXの成果を把握するためには、企業内部の状況を定量的に把握することが難しいという課題があります。DX導入前後の状態を正確に比較することが困難であり、売上や利益の増加がDXの効果なのか、外部環境の変化によるものなのかを判断するのは容易ではありません。また、DXにより業務効率化が進んでも、セキュリティ強化などの新たなコストが発生する場合もあります。
さらに、デジタル人材の不足もDXの推進を妨げる要因となっています。プログラミング教育やリスキリングの取り組みが進められていますが、デジタル技術を駆使した経営戦略を描ける人材はまだ少数派です。企業がDXに関するどのような業務でどの程度の人材が不足しているかを把握するための統計も十分ではなく、企業内でデジタル人材を育成する方法や新たに雇用する方法についても明確な指標がないのが現状です。
DXの効果を捕捉するためには、企業の財務諸表上のコスト削減効果や売上増加の要因を正確に分析することが重要です。特に、業務効率化による削減効果と外部要因によるコスト変動を区別することが求められます。また、デジタル投資の成果を定量的に評価するためのアンケート調査や、企業内部の状況を把握するための定性的な調査も重要です。
総じて、DXの経済的影響を正確に把握するためには、企業の具体的な取り組み内容とその成果を詳細に分析することが不可欠です。これにより、日本企業のDX推進がより効果的に進められ、労働生産性の向上や付加価値の創出が実現されることが期待されます。
参考:資料4 「企業アンケートより読み解くDXの経済的影響に関する一考」
⇒ 詳しくは総務省のWEBサイトへ