2024年12月26日
労務・人事ニュース
映像伝送技術で進化する検視官業務、犯罪死の見逃しゼロへ
令和6年版死因究明等推進白書 4章 警察等における死因究明等の実施体制の充実(厚労省)
警察庁では、今後の死亡数増加に対応するため、死因究明体制のさらなる充実を目指しています。近年、死因や身元確認に関する業務が複雑化する中、新たなテクノロジーと運用体制の改善が進められています。本記事では、警察庁の具体的な施策を取り上げ、これがどのように現場で活用され、今後の社会にどのような影響を与えるのかを詳しく解説します。
まず注目されるのが、検視官の運用の効率化です。警察庁では、現場に直接臨場しない場合でも、映像伝送装置を活用することで、遠隔からリアルタイムに死体や現場の状況を確認できる仕組みを整備しています。この装置により、捜査員から送信された映像を基に検視官が判断を行い、臨場の要否や優先順位を即座に決定できます。この技術の導入により、効率的な業務遂行が可能となり、特に犯罪性の有無を迅速に見極める際に大きな成果を上げています。
また、司法解剖および調査法解剖に関する予算の見直しが行われており、令和6年度当初予算では司法解剖に2389百万円、調査法解剖に300百万円が計上されています。解剖件数の増加や対応の高度化に伴い、これらの経費の適切な見直しが必要とされています。日本法医学会とも連携し、年間の解剖状況を踏まえた予算策定が行われており、この透明性のある調整が現場の信頼性を支えています。
薬毒物の定性検査に関しても、科学捜査研究所の体制整備が進んでいます。薬毒物の分析機器の更新や指定薬物の鑑定用標準品の整備が行われ、令和5年度補正予算では205百万円、令和6年度当初予算では3百万円が投じられました。これにより、血液や尿、食品中の毒物の鑑定精度が向上し、捜査のスピードと信頼性が大きく向上しました。
さらに、死亡時画像診断の普及も進んでいます。令和5年度の統計によれば、死亡時画像診断が行われた死体の数は1万8983体で、実施率は9.6%に達しました。協力病院の数も全国で1457機関にのぼり、海上保安部署でも264機関と連携が強化されています。こうした体制の整備により、自然死と犯罪死の区別がより正確に行えるようになり、法医学的判断が迅速に下せる環境が整いつつあります。
身元不明死体の確認を効率化するための「身元確認照会システム」も注目すべきポイントです。このシステムは、DNA型記録や身体的特徴、歯科所見などの情報を統合し、行方不明者情報との対照を行う仕組みです。令和5年には、身元不明死体145件の確認が行われ、そのうち72件はDNA型データベースの活用によるものでした。これにより、遺族への迅速な通知や引渡しが可能となり、社会的負担の軽減が期待されています。
さらに、DNA型鑑定の体制強化にも力が注がれています。令和6年度の予算には、DNA型鑑定資器材の整備費として3403百万円が計上され、都道府県警察の科学捜査研究所の能力向上が図られています。これにより、身元確認の精度が向上し、迅速な対応が可能となっています。
警察庁はまた、大規模災害発生時の迅速な対応策として、広域緊急援助隊の運用を進めています。例えば、令和6年1月の能登半島地震では、約640人の刑事部隊が派遣され、過酷な環境下で死体の調査や遺族対応を実施しました。このような緊急時の対応力は、警察庁の体制整備がいかに実効性を伴っているかを示す一例といえるでしょう。
これらの取り組みは、単に死因究明にとどまらず、社会全体の安全と安心を支える重要な柱となっています。今後もテクノロジーの進化を活用しつつ、関係機関との連携をさらに強化することで、より効率的かつ信頼性の高い死因究明体制が実現されることが期待されます。
⇒ 詳しくは厚生労働省のWEBサイトへ