2024年10月26日
労務・人事ニュース
最低賃金引上げが中小企業に与える影響とは?2021・2022年度の調査で浮き彫りになった対応策と経営戦略
「最低賃金の引上げと企業行動に関する調査」結果―2021・2022年度の連続パネル調査を通じて―(JILPT)
2024年10月11日に公表された「最低賃金の引上げと企業行動に関する調査」は、2021年度と2022年度に実施された連続パネル調査を通じて、中小企業が地域別最低賃金の引上げにどう対応してきたかを分析したものです。この調査は、2016年に定められた「年率3%程度の最低賃金引上げ」という方針に基づき、特に中小企業がどのような影響を受け、どのように対処しているかを検証する目的で行われました。
地域別最低賃金の引上げは、コロナ禍を除く2016年度以降、毎年実施され、特に中小企業への影響が大きいとされています。2021年度と2022年度に行われた調査では、全国の従業員規模1~299人の企業2万社を対象に、郵送でアンケートが送付され、その回答を基に分析が行われました。2021年度の調査では、6,554社から有効な回答を得ており、有効回答率は32.8%でした。2022年度には7,634社からの回答があり、有効回答率は38.2%と、前年を上回る結果となりました。
調査結果からは、2022年度において、最低賃金の引上げに対処するために何らかの取り組みを行った企業は30.7%にのぼることがわかりました。具体的な取り組みとしては、正社員の賃金引上げが53.1%で最も多く、次いで製品やサービスの価格・料金の引上げが45.3%、人件費以外のコスト削減が43.7%と続きました。その他、作業効率化や非正社員の賃金引上げ、給与体系の見直しなども見られましたが、新規採用の抑制や事業所の移転といった対応は少数にとどまりました。
さらに、取り組みを行った企業に対し、これらの対応が労働者の生産性や売上にどのような影響を与えたかを尋ねたところ、「変わらない」との回答が45.7%と最も多かった一方で、「はっきりと伸びた」および「伸びたと思う」との回答は合計で38.8%を占め、「低下した」との回答(6.0%)を大きく上回る結果となりました。また、2021年度と2022年度を通じたパネル調査では、生産性が伸びたと感じる企業の割合が増加していることも明らかになっています。
この調査では、最低賃金の引上げに対して企業が期待する政策支援についても質問が行われました。最も期待されている支援策は、賃金引上げに伴う税制優遇の拡大(46.2%)であり、次いで設備投資や生産性向上への助成金拡充(40.0%)が求められています。また、製品やサービスの価格転嫁を支援する取引適正化の要望も23.9%と高い関心を集めています。このような政策的支援は、引き続き最低賃金の引上げに対応するための重要な要素として企業からの期待が寄せられています。
パネル調査においても、政策支援への要望は一貫して高く、「賃金引上げに対する税制優遇」や「設備投資の助成金拡充」に対するニーズが顕著に表れています。特に、価格転嫁の支援については2021年度よりも上昇傾向にあり、企業の経営環境改善に向けた具体的な施策が今後も求められることが示唆されています。
この調査結果からは、最低賃金の引上げが企業に与える影響は一様ではなく、企業の規模や業種によって異なる対応がなされていることが浮き彫りになっています。特に中小企業にとっては、賃金の引上げやコスト削減だけでなく、生産性向上や価格転嫁の支援が経営を維持していくために重要であり、政府による政策的支援の継続と拡充が今後も求められていると言えるでしょう。