2024年8月18日
労務・人事ニュース
深刻な整備士不足と後継者不在が引き金となる自動車整備業界の倒産増加:2024年のデータから見る業界の課題
帝国データバンク「「自動車整備事業者」の倒産、休廃業・解散動向」(2024年8月7日)
2024年8月7日に発表された帝国データバンクの調査結果によれば、自動車整備事業者の倒産および休廃業・解散件数が過去最多ペースで増加しており、業界全体に大きな影響を与えています。この動向は、単なる市場の変動にとどまらず、深刻な業界の構造的な問題を反映しています。
2024年の1月から7月までに、倒産が27件、休廃業・解散が271件発生し、合計で298件に上ります。この数値は、過去最多であった2020年の418件(倒産58件、休廃業・解散360件)を上回る勢いで進行しており、2024年の年末までにはさらに増加する可能性が高いとされています。特に休廃業・解散の増加が顕著であり、通年で初の400件を超えることが予想されています。これらのデータは、業界が直面している厳しい現実を如実に物語っています。
休廃業や解散が急増している背景には、いくつかの深刻な課題があります。まず、人手不足の問題です。自動車整備士の有効求人倍率は2022年度には5.02倍に達しており、これは2011年度の1.07倍から大幅に上昇しています。このような高い求人倍率は、整備士が市場で極めて希少な存在であり、その確保が難しいことを示しています。整備士不足がもたらす影響は広範であり、特に高齢の経営者や小規模な事業者にとっては深刻です。
また、後継者不足や経営者の高齢化も大きな課題です。帝国データバンクが全国の約1万7400社の自動車整備事業者の経営者の年齢を調査したところ、60歳以上の経営者が全体の57.0%を占めていることが分かりました。さらに、2023年の調査では後継者不在率が59.7%に達しており、事業承継が困難な状況にあります。こうした背景から、経営者が高齢である場合、事業を継続する意欲や体力が減退し、廃業を選択するケースが増えています。
加えて、自動車の電動化や電子化の進展も、事業者にとっての大きな挑戦となっています。自動車業界全体で急速に進行する技術革新に対応するためには、新たなノウハウの習得や高額な設備投資が求められます。例えば、2021年10月からは、全ての車両に対してOBD(オンボード・ダイアグノシス)診断が義務化されました。これは、車両のコンピュータ制御に関する高度な知識と設備が必要とされるため、従来の整備技術だけでは対応できないケースが増えていることを意味します。特に、小規模な事業者や高齢の経営者にとって、こうした新たな技術への対応は容易ではなく、事業を続けることが困難になることが多いのです。
さらに、業界内の競争も激化しています。自動車整備事業者にとって、競争相手は町の整備工場だけではありません。自動車ディーラーや中古車販売チェーン、ガソリンスタンド、カー用品店、さらには格安整備チェーンなど、さまざまなプレイヤーが市場に存在しています。これらの競争相手が提供するサービスは多様であり、価格やサービス内容で競争が激化しているため、特に資金力や技術力に限界がある小規模事業者にとっては、競争に打ち勝つことが難しくなっています。
こうした背景から、多くの自動車整備事業者が廃業を余儀なくされており、既存の顧客を自動車ディーラーなどに引き継ぐ動きが増えています。この動向は、業界全体に深刻な影響を与えるだけでなく、地域社会にも影響を及ぼす可能性があります。地域の整備工場が減少することで、顧客はより遠方のサービスを利用せざるを得なくなり、地域経済にも負の影響が出ることが懸念されます。
これらの課題を解決するためには、若年層の整備士をいかに確保し、育成するかが鍵となります。若い人材を業界に引きつけるためには、働きやすい環境の整備やキャリアパスの明確化、さらには最新技術に対応できる教育体制の強化が必要です。こうした取り組みがなされない限り、自動車整備事業者の市場からの退場は今後も続く可能性が高いと考えられます。
今後の業界の展望としては、技術革新に対応できる体制の整備や、新しい世代の整備士の育成が不可欠となります。これにより、業界の持続可能な発展が可能となり、地域社会への貢献も続けられることでしょう。
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