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世界経済の潮流2024Ⅰ AIで変わる労働市場（内閣府）

人工知能（AI）の急速な発展は、現代の労働市場に大きな影響を与え始めています。広義のAIは「予測装置」として定義されることが多く、汎用技術（General-Purpose Technologies: GPTs）として認識され、社会、経済、政策に深い影響を及ぼす技術と位置付けられています。特に、OpenAI社が開発した大規模言語モデル（Large Language Model）であるChat-GPTに代表される生成AI（Generative AI）は、従来のAIとは異なり、事前に学習した膨大な情報をもとに自然な文章を生成する能力を持ちます。これにより、専門的な分野でも短時間で大量の文章を作成することが可能となりました。

AIの進歩は、ビジネスや学術分野においても広範に活用されており、生産性を飛躍的に向上させています。例えば、従来型AIは企業レベルの生産性を0～11%向上させるのに対し、生成AIはタスクレベルの生産性を10～56%向上させたとの研究結果もあります。このことから、AIの導入が人の関与を必要とする範囲を狭め、労働時間や雇用者数を削減する可能性が現実的な選択肢となってきています。

各国のAI研究者を対象とした調査では、多くのタスクが将来的にAIによって代替される可能性が高いと予測されています。実際に、AIの影響が企業の雇用や採用活動に具体的な変化をもたらしている例も見られます。例えば、Dropbox社はAI時代の到来を受けて従業員の削減を発表し、IBM社もバックオフィスの従業員の一部をAIで代替可能とし、新規採用の停止を表明しています。

AIは職業やタスクを「代替」するだけでなく、「補完」する機能も持ちます。翻訳や医療画像の解析、判例検索などにおいてAIの導入は労働者の生産性を高め、新たな需要を創出することで雇用を拡大する可能性もあります。しかし、AIが労働市場に与える影響については様々な側面があり、個々の職業やタスクに対する影響は一様ではありません。

AIによる職業やタスクの補完と代替の影響については、職業ごとに異なる特徴があります。物理的タスクが多い職業はAIの影響が小さく、事務的タスクが多い職業はAIによって大きな影響を受ける傾向があります。また、意思決定の重要性が高い職業はAIによる補完が期待される一方で、事務的タスクの多い職業はAIによって代替されるリスクが高いとされています。

具体的な職業別の影響について、アメリカの職業分類データを基にした分析では、AIの影響が大きくかつ代替性が高い職業、AIの影響が大きくかつ補完性が高い職業、そしてAIの影響が小さい職業の3つの区分が示されています。例えば、事務的タスクのシェアが大きい事務補助員は代替性が高く、医師や裁判官などの意思決定の重要性が高い職業は補完性が高いとされています。

AIの導入に伴う労働市場の変化は、先進国と新興国、低所得国で異なる影響をもたらします。先進国では事務的タスクのウェイトが高い職業に従事する就業者の割合が高く、AIの影響を強く受ける傾向があります。また、先進国ではデジタルインフラの整備が進んでおり、AI技術の活用が広がることで労働市場の変化が加速する可能性が高いとされています。

AIによる労働市場の変化に対応するためには、リスキリング（再教育）やAIに代替されないスキルの習得が重要となります。各国で進められているリスキリングの取り組みやAI活用に向けた教育プログラムについても、今後の労働市場の動向に大きな影響を与えることが期待されます。

AI技術の急速な進化により、労働市場は大きな変革期を迎えています。AIの導入が労働者や企業に与える影響を正確に把握し、適切な対応策を講じることが求められています。特に、AIによって代替されるリスクが高い職業に従事する労働者に対しては、新たなスキルの習得を支援するための教育や研修が重要です。また、AI技術の進展に伴い新たに創出される職業に対しても、柔軟に対応できるような労働市場の構築が求められています。

今後、AI技術がさらに進化し、より多くのタスクを自動化することが予想される中で、労働者、企業、政府の各層が協力して対応策を講じることが必要です。AIの活用による生産性の向上や新たな雇用創出の可能性を最大限に引き出しつつ、AIによる労働市場の変化に柔軟に対応していくことが求められます。

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