2024年9月3日
労務・人事ニュース
福岡県 令和5年度労働相談件数43,049件、いじめ・嫌がらせが11年連続で最多
紛争の内容は「いじめ・嫌がらせ」が 11 年連続で最多 ~ 令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況 ~(福岡労働局)
福岡労働局が発表した令和5年度の個別労働紛争解決制度に関する報告は、企業と労働者の間における労働条件や労働環境に関するトラブルを未然に防ぐこと、または早期に解決するための取り組みについて詳細に述べています。この報告は、労働者の権利保護や職場環境の改善を図るうえで非常に重要な内容であり、今後の企業運営においても大いに参考になるものです。
個別労働紛争解決制度には、労働者と事業主の間で発生するさまざまな問題を解決するための手段として、3つの方法が用意されています。
まず1つ目は「総合労働相談」で、福岡県内に設置された13カ所の「総合労働相談コーナー」で提供されるサービスです。ここでは、解雇や雇止め、賃金の引下げといった労働条件に関する問題をはじめ、募集・採用に関する相談や、職場でのいじめや嫌がらせなど、労働者が直面するあらゆる問題に対して相談を受け付け、解決のためのアドバイスを提供しています。
令和5年度において、総合労働相談コーナーに寄せられた相談件数は43,049件にのぼり、これは前年度と比較して7.2%減少しました。この件数は、18年連続で4万件を超える大規模な相談件数となっており、依然として多くの労働者が職場に関する問題を抱えていることが示されています。
次に、労働局長による「助言・指導」が2つ目の方法です。これは、個別労働関係紛争に関する相談を受けた際に、法令や判例に基づいて助言や指導を行うもので、労働者と事業主の双方が円滑に問題を解決できるようにするための制度です。令和5年度における助言・指導の申出件数は165件で、前年から24.1%増加しています。
この増加は、企業内での労働条件や労働環境に対する問題が一層顕在化していることを示しており、特に労働条件の引下げに関する問題が多く見られます。助言・指導の内訳を見ても、「労働条件の引下げ」が24件と最も多く、次いで「解雇」が15件、「いじめ・嫌がらせ」と「出向・配置転換」がそれぞれ12件という結果になっています。このことから、企業が労働条件の変更や社員の配置転換を行う際に、労働者の権利をしっかりと保護し、適切な手続きを踏むことの重要性が浮き彫りになっています。
3つ目の方法は「紛争調整委員会によるあっせん」です。これは、中立的な第三者である紛争調整委員が、労働者と事業主の双方の主張を聞き、話し合いを促進して解決を図る手続きです。令和5年度には、あっせん申請件数が62件で、前年から51.2%の大幅な増加を見せました。特に、解雇に関するあっせん申請が最も多く、20件にのぼります。
次いで、雇止めが11件、いじめ・嫌がらせが9件と続いており、これらの問題が依然として深刻であることがわかります。あっせんの処理状況については、令和5年度中に処理された57件のうち、合意が成立したものは13件で22.8%にとどまり、残りの多くは打ち切りや取り下げとなりました。この結果は、あっせん手続きが必ずしも解決に結びつかない難しさを示しており、労働者と事業主が双方ともに納得できる解決策を見つけることの難しさが浮き彫りになっています。
さらに、福岡労働局が公表したデータから注目すべき点として、職場におけるパワーハラスメントに関する相談が挙げられます。令和2年に施行された労働施策総合推進法により、企業はパワハラ防止のための措置を講じる義務を負うようになりましたが、令和5年度には、この法に基づくパワハラに関する相談件数が2,643件に達しました。
この数字は、法施行後においても職場におけるハラスメントが依然として根強く存在していることを示しています。特に、中小企業にも同法が適用されるようになった令和4年度以降は、より広範な対応が求められるようになっています。企業はこのような状況を踏まえ、パワハラ防止のための教育や対策を一層強化する必要があります。
福岡労働局の報告は、企業に対して以下のような重要なメッセージを伝えています。まず、労働者が安心して働ける環境を整えることが、労働紛争の未然防止につながるという点です。企業は、労働条件の変更や配置転換を行う際には、労働者との十分なコミュニケーションを図り、透明性のあるプロセスを確保することが求められます。また、労働者が抱える問題に対して迅速かつ適切に対応するためには、労働相談コーナーの活用や、専門家の助言・指導を受けることが有効です。
さらに、パワーハラスメントやいじめ・嫌がらせに対する対策を強化することが、企業の社会的責任の一環として求められます。これらの問題は、企業の評判や従業員の士気に直接的な影響を与えるため、放置することは許されません。企業は、ハラスメント防止に向けた明確な方針を掲げ、全従業員に対してその重要性を周知徹底することが不可欠です。
最後に、企業は労働者の多様な働き方に対応するための柔軟な施策を導入することが求められます。データからも示されているように、正社員だけでなく、パート・アルバイト、期間契約社員、派遣労働者といったさまざまな就労形態が存在しており、それぞれのニーズに応じた対応が必要です。これにより、労働者の満足度を高め、結果的に企業全体の生産性向上につなげることができます。
以上のように、福岡労働局の令和5年度の報告は、企業が労働者との関係を良好に保ち、労働環境を改善するための具体的な指針を提供しています。この報告をもとに、企業は自身の取り組みを見直し、より良い労働環境の構築に努めることが求められます。労働紛争を未然に防ぎ、円滑に解決するための体制を整えることが、今後の企業の成長と発展に欠かせない要素であると言えるでしょう。
⇒ 詳しくは福岡労働局のWEBサイトへ