2024年6月17日
労務・人事ニュース
精神科病院入院者の権利擁護を強化する新たな支援事業、訪問支援員による外部との交流が孤独感を軽減
①入院者訪問支援事業について(厚労省)
入院者訪問支援事業について、国立精神神経医療研究センターの藤井氏が説明を担当しました。この事業が設立された背景には、2021年10月から2022年6月にかけて厚生労働省が実施した「地域で安心して暮らせる精神保険医療福祉体制の実現に向けた検討会」があります。この検討会で、精神科病院に入院中の患者の権利擁護の仕組みの構築が議論され、外部の人が患者と面会し相談に応じることで、医療機関外での交流を確保することの必要性が認識されました。
訪問支援の対象はまず市町村長の同意による医療保護入院の患者を中心に進められることとなりました。このような取り組みを行うにあたっては、精神科病院の職員にも事業の趣旨を理解してもらうことが必要です。この事業の全体の枠組みとして、入院中の患者にはパンフレットやポスターで事業の概要や連絡先が提供され、各自治体で工夫して周知が行われます。訪問支援を希望する場合、都道府県等の事務局に連絡があり、事務局が訪問支援員を2人1組で病院に派遣します。
訪問支援員は特定の資格を必要とせず、国で標準化された研修を受けた後に自治体が任命します。支援員には守秘義務が課せられており、支援中に得た情報を外部に漏らすことは禁止されています。訪問支援員の主な役割は、入院者の相談に応じたり、体験や気持ちを聞いたり、困り事の解消や希望する支援を受けるための情報提供を行うことです。この事業は、患者に対する直接的な支援効果だけでなく、病院にもメリットをもたらします。外部の人が訪れることで病院内の風通しが良くなり、職員が柔軟な考え方や多様な価値観を持つことが期待されます。
入院者訪問支援事業の根拠となる法律は、2022年12月に成立した改正精神保険福祉法であり、その第35条の2に規定されています。この法律には附帯決議が付され、事業の実施体制の整備が求められています。特に、訪問支援員の研修が重要で、精神科病院に入院している患者の権利擁護を目的としたアドボケイトとしての役割が強調されています。
よくある質問として、通常の退院支援との違いが挙げられます。通常の退院支援は地域援助事業者によるフォーマルな支援とされますが、入院者訪問支援事業は患者の希望に基づいて病院や地域援助事業者からの支援を直接提供するものではありません。また、病院職員が行うケアとは異なり、訪問支援員は外部からの第三者的立場で支援を行うことで、病院内のケアを補完する役割を果たします。
入院者訪問支援事業は、精神科病院に入院中の患者の権利を守るための重要な取り組みです。訪問支援員の活動により、患者の安心感や孤独感の緩和、自己肯定感の回復が期待されます。また、病院内の風通しが良くなり、職員の多様な価値観の理解が深まることも期待されています。この事業は、精神科病院のケアの質を高める補完的な役割を担い、患者のより良い入院生活をサポートします。
さらに、病院側からの不安として、外部の人が入ることで入院当初の信頼関係構築が妨げられるのではないかという声がありますが、訪問支援員は病院と敵対するものではなく、研修を受けた上で活動するため、信頼関係の構築を妨げることはないとされています。訪問支援員は、患者の立場に立ち、病院職員とのコミュニケーションを促進する役割を果たします。
入院者訪問支援事業は、入院者の権利擁護を目的とし、第三者的立場での支援を提供することで、入院者の安心感や孤独感の緩和、自己肯定感の回復を図ります。この取り組みは、精神科病院のケアを補完し、患者の生活の質を向上させることを目指しています。
⇒ 詳しくは厚生労働省のYoutubeチャンネルへ