2024年11月20日
労務・人事ニュース
航空業界の安全性向上に向けた取り組み、2023年度の航空事故発生件数は前年比200%増加した状況下での企業のリスク管理体制を再考する必要性
「航空運送分野」の安全情報(令和5年度)の公表 ~「第35回航空安全情報分析委員会」の結果概要~(国交省)
令和5年度における航空安全情報分析委員会の結果が国土交通省から発表されました。航空法に基づき、航空運送事業者が運航に支障をきたす事態が発生した際には報告が義務付けられており、国土交通省ではこの情報をもとに、航空安全の強化を図っています。今年度も安全情報分析委員会が開催され、最新の安全情報の収集・分析が行われました。
まず、令和5年度の国内航空運送事業者の航空事故・重大インシデントの発生状況として、3件の航空事故と1件の重大インシデントが発生しました。具体的には、今年1月2日、日本航空の便と海上保安庁の航空機が東京国際空港で衝突し、17名が負傷、5名が死亡するという重大な事故が発生しました。続く2月には、全日本空輸の便が飛行中に乱気流に遭遇し、客室乗務員2名が負傷しました。さらに3月には全日本空輸の別の便が降下中に落雷を受け、機体が損傷を負う事故が発生しています。重大インシデントとしては、7月に発生した日本航空の便が函館空港への着陸を2度試みるも、視界不良のために新千歳空港への着陸を余儀なくされ、燃料が残り少ない状態で優先着陸した事例がありました。
令和5年度に航空運送事業者から国土交通省に報告された安全上のトラブルの合計件数は799件に達しました。この報告には、航空事故、重大インシデントに加えて、その他の安全上のトラブルが含まれています。これらのトラブルは、運航中に発生した構造損傷が5件、システム不具合が140件、非常用機器の不具合が33件、運用限界の超過や経路・高度の逸脱が75件、機器の指示による急操作が192件、その他350件となっています。これらの数値からも、システム不具合や運用限界超過などが航空安全の観点で大きな課題として浮き彫りになっています。
トラブルの詳細な内訳では、機材の不具合が225件と最も多く、次いでヒューマンファクターによる問題が237件報告されています。特にヒューマンファクターに関しては、運航乗務員や整備従事者の対応が問題とされる事例が多く、各事業者はこれに対する対策を講じている状況です。TCAS RAやGPWSの回避指示を受けた回避操作も165件と高く、特に航空機の衝突防止装置が発する警報を受けての緊急回避操作に関するトラブルが顕著に増加しています。アルコールに関連する不適切な事案についても、運航乗務員や整備従事者を中心に発生しており、引き続き改善が求められる領域です。
また、トラブルの発生件数の推移を見ると、平成18年度以降、報告件数は増加傾向にあり、航空運送事業の拡大と共にリスクが増していることがわかります。特に令和5年度は、コロナ禍以前の運航規模に戻りつつある影響もあり、事案数が増加しています。一方で、危険物の誤輸送に関する報告は前年の296件から103件へと大幅に減少しました。これは、亜塩素酸ナトリウム液などの危険物が機内に持ち込まれる事例が少なくなったことが主な要因であり、国土交通省では引き続き危険物輸送ルールの啓発活動を進めるとしています。
航空安全情報分析委員会は、これらの報告を基に各事案に応じた対策を講じ、引き続き適切なフォローアップが必要であるとしています。たとえば、機材の不具合に対しては適切な点検・整備の徹底、ヒューマンエラー防止に向けた乗務員訓練の強化、またTCAS RAやGPWSに関する情報共有の推進などが挙げられます。これにより、各航空運送事業者が自身の課題に合わせた対策を実施し、安全運航を確保することを目的としています。
さらに、令和5年度の航空事故の対応においては、各航空運送事業者による原因分析や対策が行われ、運輸安全委員会と連携して今後の安全確保が図られています。たとえば、1月の衝突事故については、基本動作の徹底や外部監視の強化が行われ、再発防止に努めています。2月の乱気流遭遇による負傷事案では、客室乗務員や乗客へのシートベルト着用サインを迅速に点灯する対策が再確認されました。また、運輸安全委員会の調査結果を基に、必要に応じて追加的な安全対策が講じられます。
重大インシデントに関しても、着陸時の燃料管理の重要性が改めて浮き彫りになりました。函館空港の視界不良による新千歳空港への目的地変更の際、残燃料が少なくなり優先着陸を要請した事例では、着陸時点での残燃料確保の重要性や、最悪の場合に備えた燃料管理が組織的に徹底される必要性が指摘されています。航空会社では、これを受けて飛行計画の見直しや燃料管理の徹底を進めています。
今回の分析を受け、国土交通省は各航空会社が今後もトラブル対応に取り組むとともに、航空安全情報の活用をさらに進め、航空輸送の安全性向上を目指すとしています。また、政府としても、個々の航空会社の運航特性に応じた監査の実施や、情報提供の強化により、安全確保への取り組みを支援していく方針です。
⇒ 詳しくは国土交通省のWEBサイトへ