2024年11月21日
労務・人事ニュース
過重労働がもたらす脳・心臓疾患リスクの実態—拘束時間と勤務間インターバルから見る健康への影響
過重負荷による労災認定事案の研究 その6(JILPT)
労災認定の脳・心臓疾患事案における過重負荷について、労働環境が健康に及ぼす影響を多角的に分析する研究が行われました。本研究の目的は、単に時間外労働の長さにとどまらず、休息時間の確保状況や勤務間インターバルに注目し、労働者の健康にどのような影響を与えたかを考察することにあります。
この研究は2010年度から2020年度にかけて労災認定された脳・心臓疾患事案を対象とし、特に「長期間の過重業務」によるものに焦点を当てました。対象データには、労災の「調査復命書」に記載された「労働時間集計表」の記録と、労働安全衛生総合研究所による過労死等データベースの情報を接続した2,266事案が含まれます。
調査の結果、勤務あたりの拘束時間が長い事案や、月あたりの拘束時間が多い事案が多く確認されました。具体的には、一勤務あたりの拘束時間が16時間以上に及ぶ事案が全体の8.2%を占め、特に「漁業」「運輸業、郵便業」などの業種や、「農林漁業従事者」「輸送・機械運転従事者」「保安職業従事者」といった職種に多く見られました。また、1か月あたりの拘束時間の平均は313.93時間であり、320時間以上の事案が全体の32.9%を占めています。これも「農林業」「漁業」「運輸業、郵便業」「宿泊業、飲食サービス業」などの業種や、特定職種に偏る傾向が確認されました。
さらに、勤務間インターバルにおいても、9時間未満の日の事案が12.3%あり、9~11時間未満の事案を加えると、11時間未満の日が全体の36.9%に及ぶことが分かりました。特に「漁業」「運輸業、郵便業」や「農林漁業従事者」「輸送・機械運転従事者」などで、この割合が高くなっています。また、「情報通信業」「学術研究、専門・技術サービス業」「宿泊業、飲食サービス業」などでも同様の傾向が確認されました。
本研究の結果から、長時間労働や拘束時間の長さ、勤務間インターバルの短さが労働者の健康に及ぼす負荷が明らかになりました。これらの働き方は、休息時間を十分に確保できず、労働者の健康悪化を助長する要因と考えられます。過労死防止の観点からも、単に時間外労働を抑制するだけでなく、休息の確保や適切な勤務間インターバルの確保など、多角的な視点で労働環境を見直す必要性が指摘されます。また、拘束時間が長く勤務間インターバルが短い働き方が特定の業種や職種に偏る背景には、業界の営業時間や慣行などが関連していると考えられ、これらの業態的要因も踏まえた対策が求められます。
本研究は「令和6年版過労死等防止対策白書」にも反映されており、長時間労働抑制や過重労働問題に関する政策の企画・立案に寄与する重要な知見を提供しています。