2024年6月26日
労務・人事ニュース
遺産と労働供給の関係、50代女性に顕著な影響
遺産相続が相続人の労働供給に与える影響:個票パネルデータを用いた実証分析(内閣府)
2024年6月、経済社会総合研究所は日本の女性を対象にした遺産の受け取りが労働供給に与える影響に関する研究結果を発表しました。この研究は、長期にわたり日本の女性を追跡し、遺産の受け取りによる労働供給の変化を詳細に分析したものです。
研究の背景には、日本の少子高齢化が進む中で世代間の資産移転の重要性が増している現状があります。特に遺産の受け取りが受け取り手の資産形成に与える影響は大きく、その結果として労働供給の減少が懸念されています。遺産を受け取ることにより、労働から離れて余暇を楽しむ傾向が強まると考えられています。このため、遺産税の設計において、こうした労働供給の変化を考慮することが重要です。例えば、遺産税の増加は、税後の遺産額を減少させ、その結果、労働供給の減少を抑える効果が期待されます。
この研究では、日本の女性を対象にしたパネルデータを用いて、遺産受け取りが労働供給に与える影響を分析しました。特に、遺産の期待、非公式な介護、流動性制約の三つの要因に注目しました。これらの要因を無視すると、労働供給の変化が過小評価または過大評価される可能性があるためです。
調査の結果、遺産を受け取った女性は労働供給が減少することが分かりました。この減少は主に労働市場からの退出によるもので、特に50代の女性や、40歳未満で子供がいる女性に顕著でした。遺産を受け取ることで、労働を続ける必要がなくなり、家事や自己ケアに時間を費やすようになる傾向が見られました。具体的には、遺産を受け取った年とその後の数年間にわたり、平日の労働時間が顕著に減少しました。
労働供給が減少した一方で、家庭内での役割が増加することも明らかになりました。特に、週末や休日に家事や育児に費やす時間が増加しました。また、遺産を受け取った後も家計支出にはほとんど変化が見られませんでした。これは、遺産が主に労働からの退出に使われ、消費には反映されなかったことを示唆しています。
予期しない遺産の受け取りは、予期された遺産よりも労働供給の減少に強い影響を与えることが分かりました。予期しない遺産は突然の富の増加をもたらし、労働市場からの退出を促進する効果が高いと考えられます。また、親の介護が終了した後の労働供給の増加を考慮しないと、遺産受け取り後の労働供給の減少が過小評価されることが示されました。介護が終わることで、これまで労働に参加できなかった女性が再び労働市場に参入することが期待されます。
この研究は、遺産の受け取りが労働供給に与える影響を詳細に解明しました。特に、遺産の期待や介護の影響、流動性制約の役割を考慮することで、労働供給の変化をより正確に捉えることができました。政策的には、遺産税の設計において、労働供給の変化を考慮する必要があります。遺産税の増加は、税収の増加とともに、労働供給の減少を抑制する効果が期待されます。また、遺産受け取り後の女性が労働市場に再参入しやすい環境を整えることも重要です。例えば、再就職支援や柔軟な労働時間制度の導入が考えられます。さらに、介護支援制度の充実も、労働供給の維持に寄与するでしょう。
今回の研究は、遺産が労働供給に与える影響を明らかにするだけでなく、今後の政策設計に重要なインサイトを提供します。興味のある方は、詳細な研究結果をぜひ参考にしてください。
⇒ 詳しくは内閣府のWEBサイトへ