2024年11月16日
労務・人事ニュース
高齢者の労働意欲を高める政策転換!年金支給停止緩和と企業の対応ポイント
『社会保障研究』第9巻第2号 在職老齢年金の緩和・廃止と就業行動の変化
在職老齢年金制度とは、60歳以上で老齢厚生年金を受給しつつ就労している高齢者に対し、一定の収入を超えると年金の一部または全額の支給を停止する仕組みです。この制度は、1965年に高齢者の生活支援として導入され、支給の停止基準額や支給開始年齢を中心に数回の改正が行われてきました。2020年には、65歳以上の高齢者に適用される支給停止基準と65歳未満の基準が統一され、より多くの高齢者が就業できるよう配慮されました。しかし、賃金の上昇が年金の減額や支給停止に直接影響することから、働く意欲を削いでいるとの指摘もあります。
また、2024年4月には基準額が50万円に引き上げられ、年金支給の減額が適用される対象の高齢者が減少すると期待されていますが、依然として在職老齢年金制度が高齢者の労働市場参加における「就労の壁」となっている側面があります。2022年の時点では、この支給停止制度の影響を受けた65歳以上の年金受給者は全体の16%であり、4,500億円の年金支給が停止されています。
さらに、政府は高年齢者雇用安定法を複数回改正し、雇用確保措置を義務化することで企業に対して65歳以上の雇用維持を促しています。2021年には70歳までの雇用確保が努力義務として追加され、企業が(1)70歳までの定年延長、(2)定年廃止、(3)継続雇用制度の導入、(4)業務委託契約の継続、(5)社会貢献活動への従事のいずれかを講じることが求められるようになりました。このような政策によって高齢者の就業率は大きく向上し、2023年には60~64歳の高齢者の就業率が74.0%に達しています。
一方で、在職老齢年金制度の廃止に向けた議論も活発化しています。この制度の存続については賛否が分かれており、賛成派は、収入が増えた場合に支給が制限される仕組みが高所得者の優遇に対する抑制として必要であると主張しています。一方、反対派は、制度が働く高齢者にペナルティを課しており、高齢者の意欲を削いでいるとしています。例えば、賃金が基準額を超えることで受給年金が減額されるため、収入調整のために労働時間を短縮する高齢者も多く、特に低所得者に対する支援の側面が見直されるべきだとの意見が強まっています。
このような背景から、年金受給と高齢者の雇用維持のバランスを図るために、在職老齢年金制度の改革や廃止に向けた試算が行われてきました。2019年の年金財政検証では、基準額の引き上げや制度の廃止が年金財政に与える影響が試算され、基準額を62万円に引き上げた場合、所得代替率は0.2%低下し、制度を完全に廃止した場合は0.3~0.4%の低下が見込まれました。
これに対して、企業や労働市場においては年金受給を含む高齢者の収入の維持と雇用促進が優先課題とされています。65歳以上の人が働き続ける中で安定的に年金を得られる環境が求められ、基準額引き上げに伴う支給停止対象者の減少や在職年金制度の撤廃が議論されています。高齢者が収入を得ながらも安心して働けるよう、企業と政府が協力して柔軟な年金制度と雇用支援の確立が不可欠となるでしょう。
⇒ 詳しくは国立社会保障・人口問題研究所のWEBサイトへ