2024年11月16日
労務・人事ニュース
高齢者の就労拡大で年金額維持!年金制度改革で拠出期間45年の実現を目指す
『社会保障研究』第9巻第2号 平均余命の伸びに伴う保険料拠出期間の延長
日本の年金制度に関する最新の分析に基づき、平均余命の増加が年金受給や保険料の拠出期間にどのような影響を与えるかを考察した報告書が発表されました。日本の高齢化社会において、年金制度の持続可能性と将来の給付水準への懸念が増している中、今回の報告は、拠出期間や受給開始年齢の延長が必要とされる根拠を示し、具体的な改革案を提案しています。
報告書によると、日本ではこの60年間で65歳の平均余命が10年延び、今後もさらに約3年伸びると予測されています。2020年の生命表では65歳時点の平均余命は男性が84.97歳、女性が89.88歳まで伸びるとされ、2070年にはさらに男女共に長寿化が進むとされています。このような背景から、平均余命の伸びが就労期間および年金の受給期間に影響を及ぼすことが指摘されています。
特に年金制度においては、年齢区分を固定せずに、実際の非就業者を支える就業者の数に基づいて年金財政を再考する視点が重要とされています。1975年には1人の高齢者を7.7人の就業者が支える構図であったのが、2020年にはその数が1.9人に減少し、2070年には1.26人になる見通しです。しかし、単に年齢で高齢者を定義するのではなく、就業者数の増加や高齢者の労働参加を踏まえて非就業者1人を支える構図を見直すことで、年金制度への不安を緩和できるとの見解が示されています。
さらに、就労期間の延長と年金受給の開始時期を一体的に調整する重要性が強調されています。1985年の年金改正では、拠出期間が32年から40年に延びたことを受けて給付乗率を引き下げる方針が採られましたが、年金額は据え置かれました。これは、「就労期間の延長が保険料拠出の期間延長と連動しているため、年金額に変化がない」と説明され、国民の理解を得るための手法として評価されました。
現在、日本では定年延長と共に年金支給開始年齢が引き上げられています。65歳支給開始の移行期間を経て、2025年には男性が65歳、2030年には女性が同年齢での支給開始が完了する予定です。これに伴い、保険料の拠出期間を45年に延長する案が提起されており、将来的な年金水準の維持が図られています。また、マクロ経済スライド調整により、少子高齢化による財政制約下で給付水準が自動的に調整される仕組みが導入され、年金財政の安定が試みられています。
2024年の財政検証では、将来の年金の所得代替率が現行の61.2%から50.4%へと低下する見込みが示されましたが、66歳10か月まで就労し、年金受給を遅らせることで所得代替率を維持する方策も提示されています。平均余命が伸び、より長い就労が可能な時代には、年金受給の繰り下げによる増額措置が効果的であり、保険料拠出の長期化と年金額の安定に繋がるとされています。
若年世代に関しても、労働参加の進展により厚生年金加入期間が長くなることが予測され、これにより年金額も増加傾向にあるとされています。具体的には、男性の平均年金額が現行の14.9万円から同水準を維持、女性の年金額は9.3万円から10.7万円に増加する見通しが示されました。この推計結果により、若年層における年金水準の低下への懸念が払拭されると期待されています。
マクロ経済スライドの調整は、新規受給者だけでなく既裁定年金受給者にも適用されるため、現在60歳定年世代の年金水準も調整の対象となりますが、これは年金制度の持続性確保と拠出期間の延長に連動して行われるため、全体的なバランスが取れるとの見方が示されています。今後も継続的なスライド調整が予想され、経済が上向き基調にある中では調整が一層発動される見通しです。
基礎年金の拠出期間の45年化は、現行の40年制度が時代の実情に即していないことが背景にあります。既に日本では65歳までの継続雇用が一般化しつつあり、60歳定年制の時代に基づく40年拠出の枠組みでは様々な不合理が生じています。厚生年金加入者は、70歳まで同じ保険料を負担しているにもかかわらず、基礎年金に反映されない部分が生じています。これを解消するためには、基礎年金を45年に延長することが必要であり、多くの人にとって受給額が増えるとともに公平な制度運営が可能となると指摘されています。
さらに、基礎年金の45年化による財源問題については、国庫負担分の補填が課題とされています。具体的には、45年拠出が実現した場合、追加の税財源が必要であることから、国民の理解が求められるところです。ただし、拠出期間の延長による給付増は、加入者全体における持続可能な財政運営と給付水準の維持に不可欠であるとの見解が示されています。
総じて、平均余命の伸びによる就労期間と年金の受給期間のバランスを踏まえた制度設計が重要であり、基礎年金の45年化が実現すれば、将来的な年金制度の持続可能性を高めるための大きな一歩となると考えられます。政府は今回の報告を受けて、制度改革の検討を進めていく方針を示していますが、拠出期間の延長と年金受給の安定を如何に両立させるか、今後の政策課題として注目されています。
⇒ 詳しくは国立社会保障・人口問題研究所のWEBサイトへ