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2025年4月28日

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中小製造業のためのセキュリティ解説書公開、サプライチェーン全体を守る具体策

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中小規模の製造事業者向けに工場のセキュリティを確保するための具体的な手順や事例を紹介する解説書を策定しました(経産省)

2025年4月11日、経済産業省は製造業におけるサイバーセキュリティの重要性を踏まえ、中小規模の製造事業者を対象とした新たな解説書「工場セキュリティの重要性と始め方」を策定・公開しました。これは、工場システムを取り巻くサイバー・フィジカル・セキュリティ対策ガイドラインの補完資料として位置づけられたものであり、現場で実務を担う担当者から経営層まで、幅広い関係者が理解・活用できるよう丁寧に構成されています。IoT技術やスマートファクトリー化の加速により工場ネットワークの複雑化が進むなか、国内外で実際に被害が報告されているサイバー攻撃への備えは、今や業種や企業規模を問わず全ての製造業者にとっての必須事項となっています。

これまで工場におけるセキュリティ対策といえば、施設の物理的な安全管理に留まりがちでしたが、近年では情報通信技術の高度化によって、製造ラインや生産制御システムがインターネットを通じて外部と接続される機会が急増しています。こうした環境では、意図的なサイバー攻撃のみならず、不特定多数の攻撃者が無差別に行うランサムウェアやマルウェアの侵入も脅威となり得ます。実際、国内の中堅メーカーがシステム障害により数日間の操業停止を余儀なくされ、取引先の納期にも連鎖的な影響が生じるなど、サプライチェーン全体を揺るがす事例も少なくありません。こうした状況を踏まえ、経済産業省では令和4年11月に基本方針を示すガイドライン本編を策定し、続いて令和6年4月にはスマート化の観点から補足的なポイントをまとめた別冊資料を発表しました。

今回の解説書では、より実践的なアプローチとして、初めてセキュリティ対策に取り組む企業が何から始めればよいのかを明確に示しています。中小規模の製造事業者の多くは、専門の情報システム部門や専任のセキュリティ担当者を持たないケースが多く、対策の必要性は感じていても、何をどこから始めれば良いのか分からないという声が多く寄せられていました。こうした現場の声を受けて、解説書では経営者と現場担当者それぞれを対象とした章立てを採用し、サイバー攻撃による工場の停止や品質管理システムの異常など、現実に起こり得る被害例とともに、取るべき初動対応や日常的な予防策を提示しています。

特に経営層向けの第2章では、サイバー攻撃によって工場全体が停止した場合の損失が一日あたり平均2,000万円に達する可能性があるといった具体的な試算も紹介されており、セキュリティ対策への投資が単なるコストではなく、事業継続のための経営戦略の一部であるという認識が強く促されています。また、すでに多くの大手企業では取引先企業に対してもセキュリティ対策の実施状況を確認する動きが広がっており、下請企業であっても、対策が不十分であることが新規取引や継続契約の障害となるケースも増加しています。

さらに第3章では、工場のITインフラや製造現場の生産設備を担当する現場スタッフ向けに、セキュリティ対策をどのようなステップで進めていくべきかを具体的に解説しています。例えば、外部接続を行う装置の把握や通信ログの監視体制の構築、USB機器の管理ポリシーなど、今日からでも着手可能な対策が明示されています。また、情報システムと制御システムの連携部分におけるセキュリティギャップの見直しや、従業員への教育訓練の必要性など、人と技術の両面から工場全体の安全性を高めるための視点が網羅されています。

本書の策定にあたっては、これまでのガイドラインで蓄積された知見や、有識者・現場からのフィードバックが活用されており、技術的な詳細だけでなく、実際の運用面を意識した実践的な内容となっています。とりわけ中小企業においては、IT予算の制約や人材不足といったハードルを抱えながらも、現場に即した対策が講じられるよう工夫されており、コストをかけずとも導入できる「無償ツールの活用」や「物理的アクセス制限の見直し」なども事例として紹介されています。これにより、最初の一歩を踏み出しやすくすると同時に、他社の成功事例を参考にした改善活動が促進されることを狙いとしています。

また、この解説書の普及は、単体の企業を守るに留まらず、産業全体の競争力強化にも直結します。実際、近年のサイバー攻撃では、サプライチェーンの末端を狙った攻撃が企業全体に波及し、大規模な情報漏洩や生産停止に至るケースが多く報告されています。攻撃者の手口が高度化・巧妙化する中で、いかに企業間での連携を強化し、セキュリティの底上げを図っていくかが問われています。経済産業省は今後、この解説書を活用したセミナーや広報活動を関係省庁・団体と連携して展開していく予定であり、企業への浸透と定着が図られていくことになります。

企業の採用担当者にとっても、本書の活用は極めて有益です。セキュリティ人材の確保は今や全業種で重要視されており、特に製造業においては、ITと制御技術の両方に精通した「OTセキュリティ人材」のニーズが急増しています。セキュリティ対策に積極的な企業は、求職者にとっても魅力的に映るだけでなく、安心して働ける環境が整備されている証でもあります。新卒採用・中途採用のいずれにおいても、セキュリティへの取り組みは企業の信頼性を示す重要な評価項目であり、今回の解説書を活用することで、採用活動における強力なアピール材料となるでしょう。

このように「工場セキュリティの重要性と始め方」は、単なるマニュアルではなく、企業が未来へ進むための戦略的なツールであり、製造業の持続的成長を支える基盤として大きな役割を果たします。特に日本の製造業においては、中小企業がその大半を占めている現状を踏まえれば、一社一社の意識と行動が業界全体を守る大きな力になることは間違いありません。

⇒ 詳しくは経済産業省のWEBサイトへ

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