2025年5月3日
労務・人事ニュース
令和5年度 公的年金の運用益が前年度に比べ53.6兆円、将来不安は本当に解消か
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最終更新: 2025年5月2日 22:31
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公的年金財政状況報告-令和5(2023)年度-(厚労省)
令和5年度の公的年金財政状況報告に基づき、年金制度の現状と将来にわたる課題を整理した結果、企業の採用担当者をはじめとする人事部門にとっても無視できない多くの重要なポイントが浮かび上がってきました。特に人口構造の変化や経済前提の変動が、今後の社会保障制度の持続可能性に与える影響は大きく、それに対応するための人材戦略や制度設計にも直結してくることから、今一度、年金財政の詳細を理解することが求められます。
令和5年度の時点で、公的年金制度全体における収入は54.4兆円であり、支出は54.5兆円とほぼ拮抗していました。ここで特筆すべきは、運用損益を除いた単年度の収支が0.1兆円の赤字となった一方で、年金積立金の運用による収益は53.6兆円にも上り、結果的に年度末の積立金は304.0兆円に達し、前年度比で53.5兆円増加したという点です。この運用益の高さは近年まれに見るものであり、世界的な株式市場の回復や円安の影響が背景にあると考えられます。
その一方で、年金制度における長期的な持続性を検証する視点では、いくつかの懸念材料も明らかになりました。国民年金第1号被保険者の数が当初の想定を下回っており、反対に厚生年金被保険者の数は増加しているという構図が続いています。これは、個人事業主や非正規雇用者が減少し、企業に属する被用者の割合が増えているという社会構造の変化を反映しているものと考えられます。また、65歳時点の平均余命が過去の推計よりも短い傾向にあることや、マクロ経済スライドによる年金給付水準の調整が行われたことなども、年金制度全体にとっては財政的な安定に寄与したと報告されています。
企業の採用担当者にとって見逃せない点として、既裁定年金の物価スライドにおいて、初めて実質賃金の伸びが年金の伸びを上回ったという実績も報告されています。これは、労働市場における賃金上昇圧力が具体的な数値として現れてきたことを意味しており、今後の人件費戦略や給与水準の見直しにも関わってくる重要な指標となるでしょう。
しかしながら、明るい話題ばかりではありません。令和元年以降、合計特殊出生率が下方に乖離しており、令和5年度においては出生「低位」仮定すら下回る水準で推移しています。これは将来的な労働力人口の減少を加速させる要因であり、長期的な年金制度の財源確保に深刻な影響を及ぼすと考えられます。また、実質賃金の上昇率も、令和元年に行われた財政検証時のすべてのケースの前提を下回っており、物価上昇に賃金の増加が追いついていない状況が続いていることが示唆されています。
これらの実績値と将来の見通しとの間に乖離が見られる中で、もしこの傾向が一過性のものではなく、中長期的に継続するようであれば、公的年金財政に与える影響は計り知れません。たとえば、今後も出生率が想定よりも低く推移する場合には、保険料を支える現役世代の人口が大幅に減少することになり、年金制度の維持そのものが困難になる恐れがあります。
このような状況下で、厚生労働省は、年金制度の安定性を長期的な視点で評価する必要性を強調しています。短期的な景気変動や人口変動に一喜一憂するのではなく、むしろ長期的な社会・経済構造の変化に適応しながら、制度改革や給付水準の見直しを進めることが求められています。
また、企業の人事部門としても、年金制度の将来像が自社の人材戦略に与える影響を真剣に考慮する時期に来ています。たとえば、高齢者雇用の延長や、定年後再雇用制度の充実といった取り組みが必要となるだけでなく、若年層に対する安定した雇用提供が、長期的には社会保険制度全体の安定にも寄与することが考えられます。また、福利厚生制度の見直しを通じて、従業員にとっての老後の安心感を確保する施策も重要性を増していくでしょう。
以上のように、令和5年度の年金財政状況は、一見すると運用益によって支えられているように見えるものの、実態としては構造的な課題が根深く残っており、今後の政策対応や民間企業の取組次第で制度の持続性が大きく左右される局面にあると言えます。制度の安定を図るためにも、企業と行政が一体となって労働市場の活性化や人口減少対策に取り組む姿勢が強く求められています。
⇒ 詳しくは厚生労働省のWEBサイトへ