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2025年7月15日

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年金改革の鍵を握る厚生年金積立金、制度変更でどこまで底上げ可能か

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将来の基礎年金の給付水準の底上げについて(厚労省)

令和7年6月13日、将来の年金制度の持続可能性と公平性を確保するために、国民年金法等の一部を改正する法律案が衆議院で修正を経て成立しました。この改正は、少子高齢化の進行や経済状況の変動に備えると同時に、基礎年金の給付水準を将来的に底上げするための施策を含んでいます。特に注目されるのが、厚生年金の積立金や国庫負担の拡充を活用し、全体として年金制度の所得再分配機能を強化する方針です。

現在の基礎年金は、全国民が一定の要件を満たすことで共通に受け取れる定額の年金であり、国民年金加入者は基礎年金を、厚生年金加入者はそれに加えて報酬比例部分の厚生年金を受け取ることができます。財源の半分は国庫からの負担によって成り立っており、残りは現役世代が納める保険料で賄われています。この仕組みは賦課方式と呼ばれ、現役世代が高齢者を支える形で制度が成り立っていることを意味しています。

この賦課方式には、人口構造の変化や就業構造の変動に対応する柔軟性がある一方で、経済が長期的に低迷した場合には給付水準が抑制されるという課題も存在します。特に「マクロ経済スライド」と呼ばれる仕組みにより、経済成長が低い状況では現行の年金受給者の給付水準が徐々に抑制され、結果的に将来世代の給付水準も低下する懸念があります。これが長期化すると、所得の低い層に厚く給付するという再分配機能そのものの効果が薄れ、社会的な公平性が損なわれるおそれも出てきます。

こうした事態を回避するため、今回の法改正では、将来の基礎年金水準の低下を予見した上で、一定の条件が整えばマクロ経済スライドの調整を早期に終了させる措置が盛り込まれました。次回の財政検証が予定されている2029年の段階で、給付水準の低下が避けられないと判断された場合には、法律上の対策を講じて給付の回復を図ることになります。

特筆すべきは、この措置が若い世代や所得の低い人々にとって大きな恩恵をもたらす点です。令和6年度の財政検証をもとに試算されたモデルでは、62歳以下の男性、66歳以下の女性において、生涯で受け取る年金の総額が増えると見込まれています。特に38歳以下の人々のうち、一部の高所得者を除いた99.9%が年金総額の増加恩恵を受けるとされており、年金制度に対する信頼性の向上にもつながると期待されています。

また、年金制度全体の安定を図るため、今回の措置では厚生年金の積立金を活用する方針が示されています。厚生年金の保険料にはもともと基礎年金分が含まれており、これまでも積立金は基礎年金の支えにも充てられてきました。つまり、厚生年金の積立金を基礎年金の底上げに使うことは制度上も合理的な行為であり、いわゆる「流用」には当たらないとされています。

さらに、経済状況によっては厚生年金の報酬比例部分の給付水準が一時的に低下する可能性もありますが、その場合でも基礎年金と合わせた合計額が従来の水準を下回る場合には、適切な補填措置が講じられることが明記されています。つまり、どの世代にも過度な不利益が生じないよう、制度全体で調整する配慮がなされています。

なお、今回の法改正で重要なのは、追加の国庫負担については急を要するものではないという点です。現時点で必要となるのは2038年度以降であるとされており、その財源については今後の経済情勢や財政状況を踏まえて検討が進められる予定です。これにより、将来的な財政負担が一気に増加するリスクも抑えられます。

今回の改正は、ただ年金額を引き上げるという単純な措置ではなく、長期的な視点で制度の持続可能性と公平性を高め、あらゆる世代が安心して老後を迎えられる社会を目指すものです。基礎年金の底上げを通じて、今後の社会保障の在り方や国民の生活設計に対して、大きな安心感を与えることが期待されます。

⇒ 詳しくは厚生労働省のWEBサイトへ

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