2025年7月10日
労務・人事ニュース
100時間超の残業で精神障害の労災認定が最多、過重労働の危険性を再認識
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看護師/福岡市早良区/野芥駅/福岡県
最終更新: 2025年7月10日 02:35
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介護職員/初任者研修/有料老人ホーム/デイサービス/日勤のみ
最終更新: 2025年7月10日 03:00
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介護職員/初任者研修/日勤のみ
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看護師/西山駅/福岡県/北九州市八幡西区
最終更新: 2025年7月10日 02:35
令和6年度「過労死等の労災補償状況」を公表します(厚労省)
令和7年6月25日、厚生労働省は令和6年度における「過労死等の労災補償状況」についての詳細な統計を公表しました。この報告は、働く人々の健康と命に関わる深刻な課題である過労死や精神障害による労災の実態を明らかにするものであり、企業や雇用主が安全で健全な職場環境の構築に取り組むうえで極めて重要な資料といえます。
今回の報告によれば、令和6年度における過労死等に関する労災保険給付の請求件数は4,810件で、前年度に比べて212件増加しました。これに対して、支給決定件数は1,304件と、前年から196件増加しており、決定全体の中で死亡または自殺(未遂を含む)と認定された件数は159件、こちらも前年度より21件多くなりました。これらの数値は、労働者が業務による強いストレスや長時間労働によって命を落とす、あるいは深刻な精神的苦痛を受けている現状を如実に物語っています。
脳・心臓疾患に関連する事案では、請求件数が1,030件、支給決定件数は241件に達し、うち67件は死亡事案として認定されています。特に注目すべきは、業種別で見ると「運輸業、郵便業」が最も多く、請求件数213件、支給決定件数88件という結果でした。中でも「道路貨物運送業」における請求は155件、支給決定は76件と集中しており、トラック運転手などに代表される長時間拘束・不規則な勤務体系が深刻な健康リスクを生んでいることが示唆されます。また、年齢別では50~59歳が411件と最多で、働き盛りの中高年層が最も影響を受けている点も見逃せません。
一方で、精神障害に関する労災請求は3,780件と前年より205件増加しており、これは全体の約78%を占める大きな割合です。支給決定件数は1,055件で、うち自殺や未遂によるものは88件に上ります。特に医療・福祉分野での請求件数が983件と群を抜いて多く、次いで製造業583件、卸売業・小売業545件と続きました。精神的ストレスの要因として、利用者や顧客からの理不尽なクレームや暴言、上司からのパワーハラスメントなどが挙げられ、精神疾患と直接的に結びついている実態が浮かび上がっています。
職種別で見ると、「専門的・技術的職業従事者」が請求件数1,030件、支給決定300件と最も多く、続いて「事務従事者」では請求796件、支給決定160件、「サービス職業従事者」では請求556件、支給決定182件となっています。一般事務従事者に関しては、請求件数577件、支給決定件数97件と特に目立ち、ホワイトカラー職場におけるメンタルヘルス問題の深刻さがうかがえます。
時間外労働との関連については、精神障害で支給が決定された件数のうち、「月あたり100時間以上120時間未満」の時間外労働を行っていた労働者が74件と最多で、過重労働が精神的な疾患と明確に関連していることが裏付けられました。加えて、「40時間以上60時間未満」の層でも70件と高い数値を示しており、長時間労働だけでなく、一定水準以上の残業が継続される状況も健康リスクの要因となっていることがわかります。
精神障害の発症に関わる「出来事」の類型化による分析では、「上司等からの身体的または精神的攻撃」といったパワーハラスメントが224件と最も多く、次いで「仕事内容・仕事量の大きな変化」が119件、「顧客や取引先、施設利用者からの著しい迷惑行為」が108件となっています。これらの事象は、労働環境の変化や対人関係のストレスが精神的健康に大きな影響を及ぼしていることを強く示唆するものです。
さらに、裁量労働制対象者における労災補償も報告されています。令和6年度における脳・心臓疾患の支給決定件数は4件で、そのうち専門業務型裁量労働制対象者が3件、企画業務型が1件でした。精神障害についてはすべてが専門業務型で、4件の支給決定がありました。この結果は、裁量労働制という柔軟な働き方が、労働時間の実態を把握しにくくすることで健康管理の難しさにつながる可能性を示しています。
また、複数の業務要因が関与した複合災害として、脳・心臓疾患における支給決定件数は6件、うち死亡件数は3件となりました。精神障害では支給決定が2件、うち死亡は1件と報告されています。副業や兼業の拡大が進む現代において、複数の職場で受ける業務負荷が個人の健康に与える影響を総合的に評価する必要性がより高まっています。
以上の結果から明らかになるのは、働く現場における長時間労働、職場の人間関係、業務負荷の大きさが依然として大きな健康リスクを生んでいるという現実です。企業の採用担当者や人事担当者にとっては、過労死等の事案を未然に防ぐために、従業員の労働時間の適正管理や、相談窓口の整備、メンタルヘルスケアの充実など、組織全体としての体制づくりが今まで以上に求められます。労災認定がなされる背景には、現場での見過ごされがちなサインが存在することも多く、それをいち早く察知して対応するための研修や教育も不可欠です。
持続可能な労働環境の構築は、企業の成長だけでなく、そこで働く個人の人生そのものにも直結しています。今回の統計は、すべての雇用主に対し、職場環境の安全性と働きやすさの両立に取り組む責任をあらためて問いかけるものです。
⇒ 詳しくは厚生労働省のWEBサイトへ