2024年11月17日
労務・人事ニュース
2019年データに見る!高齢者の消費がピークの535万円に達するNTAの実態
『社会保障研究』第9巻第2号 国民移転勘定(National Transfer Accounts, NTA)の結果について(社人研)
国民移転勘定(NTA)は、少子高齢化が進行する社会における経済的フローの変化を捉えるために、世代間での収入や消費、資産の移転状況を詳細に分析する統計ツールです。高齢化の進行に伴い、若年層の人口が減少し、高齢層が増加する日本社会では、各世代の経済的な役割や負担を正確に把握することが求められています。2019年度のNTAデータによると、年齢別の労働収入と消費の差を測定するライフサイクル勘定と、各世代の不足を他世代からの移転や資産収入でどの程度補っているかを示す年齢再配分勘定の二つの指標を通じて、社会保障制度や世代間負担の公平性が評価されています。
2019年のデータによれば、0~23歳と62歳以上の層では「ライフサイクル不足」が発生し、これらの年齢層では消費が労働収入を上回ります。具体的には、若年層では保育や教育費といった消費が多く、一方で就労収入がないため負担超過の状態にあります。生産年齢層である24歳から61歳の間では、逆に「ライフサイクル余剰」が発生し、この世代は自分の消費を賄えるだけの労働収入を確保しています。これにより若年層と高齢層への支援が可能となっています。55歳が労働収入のピークであり、この年齢層は515万円の収入を記録しているのに対し、90歳以上の高齢者の消費は医療や介護の必要性の増加により年々増加し、1人当たり535万円に達することが分かりました。
年齢再配分勘定では、主に公的年齢再配分と私的年齢再配分の二つの経路を通じて他世代からの補填が行われていることが明らかになっています。公的年齢再配分は、社会保障制度を通じた年金や医療、介護サービスの提供を通して高齢者への支援が行われる一方、若年層には保育や教育への支援が集中しています。2019年度のデータでは、0~21歳と65歳以上で純受取りが発生しており、特に90歳以上の高齢者では364.1万円もの支援が提供されています。また22~64歳の生産年齢層では純支払いが発生し、56歳で最大202.4万円の支払いが行われています。高齢層に対する公的移転が増加していく背景には、医療や介護の支出が高齢とともに増大することが要因とされています。
私的年齢再配分の面では、年少層に対する私的移転が大きな役割を果たしています。18歳で190.0万円の受取りのピークを迎えますが、年齢が上がるにつれその額は減少し、25歳を境に純支払いへと変わっていきます。48歳では支払いが最大の76.3万円に達し、83歳まで支払が続きます。一方で高齢者が他世代に移転を行う立場にあることも特徴的です。また、55歳から70歳にかけては私的資産再配分が増加し、65~80歳では公的移転に匹敵する水準まで達することが確認されています。この時期の高齢者にとっては、私的資産が消費を支える重要な柱であることが示唆されています。
本研究はまた、時間を通じた社会保障制度の変遷や労働市場の変化に伴う世代間の経済的フローの動向についても洞察を提供しています。2014年度と比較すると、2019年度のデータでは、女性就業率の上昇や定年延長により、ライフサイクル余剰の期間が3年増加しています。この期間は生産年齢層が労働収入を得ることができ、他世代への支援が強化される時期を指します。さらに、2014年から2019年の間には保育施設の拡充や幼保無償化の進展により、若年層への公的移転が増加しています。これにより、少子高齢化社会における家族や個人への影響を和らげる施策が重要性を増していることが裏付けられています。
このように、NTAを活用することによって、少子高齢化社会における世代間の経済的な流れや社会保障制度の役割を把握し、長期的な政策の立案や検証に有用な情報が得られます。さらに、国際比較が可能な点もNTAの特筆すべき特徴であり、他国の高齢化対応の進捗とその影響を比較することで、政策における新たな指針を見出すことが期待されます。今後、日本の社会保障制度がさらなる高齢化にどのように適応していくのか、その成否が国民生活に大きな影響を与えると考えられます。本稿で紹介されたデータと分析結果は、国の経済政策や社会保障制度の持続可能性を考える上での重要な指針となり得るものであり、人口構造の変化に応じた制度改革が求められています。
また、2024年12月3日には社人研と日本大学人口研究所の共催によるNTAの政策活用をテーマにした厚生政策セミナーが開催される予定です。NTAの導入と活用が進むことで、少子高齢化が社会経済に及ぼす影響に対応するための、より現実的かつ具体的な政策を検討する場が提供されることが期待されています。このような取り組みは、今後の日本社会における持続可能な発展に貢献するものであり、企業や自治体にとっても重要な意義を持っています。
⇒ 詳しくは国立社会保障・人口問題研究所のWEBサイトへ