2024年12月15日
労務・人事ニュース
2021年、日本の無償労働総額が140兆円突破!企業に求められるジェンダー対応策とは
日本の国民時間移転勘定(2016年度/2021年度)の結果を公表しました。(社人研)
2021年度の国民時間移転勘定(National Time Transfer Accounts:NTTA)は、日本国内における無償労働の全体像を明らかにし、世代やジェンダーごとにその貢献度や不足額を金銭価値として示しています。この統計は、国連の基準に基づき、家事、育児、介護といった金銭取引が発生しない労働を評価し、消費と生産のバランスを分析するものです。その結果、無償労働が日本の経済や社会においてどのような役割を果たしているのかがより明確になりました。
2021年度のデータによれば、日本全体で無償労働に費やされた時間を金銭換算すると、総額140兆円に達しました。この数値は、GDPの約15%に相当する規模であり、特に女性による貢献が顕著です。具体的には、無償労働の約80%が女性によって担われており、これは有償労働の性別構造と対照的です。男性は有償労働の62.2%を占める一方で、無償労働では女性の支えが大きいことが明らかになりました。
ジェンダー間の無償労働の差は、ライフサイクルの各段階で特に顕著です。年少層(0~24歳)では、育児ケアの消費が中心となり、27兆4160億円のライフサイクル不足が発生しています。生産年齢層(25~64歳)は生産が消費を上回り、22兆2590億円の黒字を示しました。老年層(65歳以上)は58兆円を生産し、52兆9420億円を消費することで、5兆1560億円の黒字となっています。これらの結果は、各世代がどのように無償労働を支え合っているかを示しており、少子高齢化が進む中で無償労働の価値がいかに重要であるかを物語っています。
企業の採用担当者が注目すべき点として、女性の無償労働の黒字幅が40代で最大となることが挙げられます。2021年のデータでは、女性は24歳以降に黒字に転じ、39歳で最大の135万円の黒字を記録しています。この年代は子育てと仕事の両立が課題となる時期であり、企業にとって柔軟な勤務制度や育児支援策の整備が求められる理由の一つです。一方で、男性は全年齢を通じてライフサイクル不足を記録しており、家庭内での役割分担の見直しや男性の育児参加を促進する政策が急務であることも示唆されています。
2021年のデータと2016年のデータを比較すると、コロナ禍による影響が一部に見られます。育児ケアの消費額は男女ともに0歳児で大幅に増加し、一方で成人ケアやボランティア活動の生産・消費額が各年齢で概ね減少しました。この変化は在宅勤務の増加や外部活動の制限が背景にあると考えられますが、これらの変化が無償労働の構造にどのような長期的影響を与えるかは今後の分析が必要です。
また、無償労働の全体像を性別・年齢別に分析することで、世代間およびジェンダー間の移転の実態がより具体的に把握できます。例えば、育児や介護といったケア労働は、そのほとんどが家族内で移転されていますが、その価値を金銭的に評価することで、社会全体におけるケアの経済的価値が明確になります。これにより、育児支援や介護支援の施策を立案する際の重要なエビデンスを提供することが可能となります。
企業にとって、無償労働の評価は働き方改革や人材育成戦略に大きな示唆を与えます。例えば、従業員の無償労働負担を軽減するための制度設計や、家庭内役割分担を支援する施策は、従業員の満足度向上や離職率低下につながる可能性があります。また、女性のライフサイクルに合わせた柔軟なキャリア支援は、ジェンダー平等を推進するだけでなく、優秀な人材の確保にも寄与するでしょう。
これらの統計は、単なる数字ではなく、少子高齢化が進行する社会における人材戦略の方向性を示す重要な指標です。企業が持続可能な成長を実現するためには、無償労働の価値を正当に評価し、それを取り入れた柔軟な施策を講じることが求められています。
⇒ 詳しくは国立社会保障・人口問題研究所のWEBサイトへ