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2025年2月28日

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2024年、日本企業の賃金上昇率3.5%!人材獲得競争が激化する理由とは?(日本経済レポート2024年度)

日本経済レポート(2024年度)(内閣府)

日本経済は2024年、これまでとは異なる回復の道を歩んでいる。従来の輸出や製造業主導の成長から、サービス業の回復が中心となる変化が見られる。名目GDPは2024年に初めて600兆円を超え、過去5年ごとに100兆円ずつ増加する傾向を維持している。しかし、家計可処分所得が実質的に増加した一方で、消費の回復は緩やかで、依然として慎重な消費行動が続いている。

企業の採用活動において重要なのは、労働市場の動向と賃金の変化である。日本の労働市場では、賃上げが進むものの、中小企業と大企業の間で賃金上昇のペースに格差が広がっている。特にフルタイム労働者の賃金上昇は人手不足と連動しており、企業にとって採用競争の激化が避けられない状況となっている。2023年後半から、パートタイム労働者の時給は実質で前年比プラスを維持しており、フルタイム労働者のボーナスを含む実質月給も上昇傾向が続いている。この傾向は、企業が優秀な人材を確保するためにより高い給与水準を提示せざるを得なくなっていることを示している。

物価動向も採用市場に影響を及ぼしている。2023年11月以降、消費者物価指数(CPI)は概ね2%台で推移してきたが、生鮮食品やエネルギー価格の上昇により、直近では3%台に達している。特に物流費の上昇が物価全体に与える影響は大きく、10%の物流費上昇が物価全体を0.2%程度押し上げると推計されている。企業にとって、こうしたコスト上昇を価格に転嫁するのか、それとも労働者の賃金を抑制するのかという選択が迫られる。

また、消費の動向を見ても、平均消費性向の低下が続いている。共働き世帯の増加や持ち家比率の上昇が、可処分所得の一部を貯蓄に回す傾向を強めている。特に高収入世帯ほど、ボーナスや臨時収入の貯蓄割合が高くなっている。このため、消費の拡大による経済成長への寄与は限定的になっている。企業の採用戦略においても、単に賃金を上げるだけでなく、福利厚生の充実やワークライフバランスの改善といった総合的な魅力を打ち出すことが求められている。

労働力供給の面では、女性や高齢者の労働参加が進んでいるが、そのペースは鈍化している。2010年代後半までは、労働参加率の向上が労働市場を支えてきたが、2024年にはその勢いが衰えている。このため、企業は従来の採用戦略だけでは人材確保が難しくなり、新卒採用に頼らない中途採用やリスキリングを活用したキャリアチェンジ支援が必要になっている。

特に注目されるのは、転職市場の変化である。近年、転職により賃金が1割以上増加する労働者の割合が上昇しており、コロナ禍後は特に賃金への不満を理由に転職するケースが増えている。これは、企業側が給与水準を見直し、優秀な人材の流出を防ぐ必要があることを示唆している。転職市場の活性化により、即戦力人材の獲得競争が激化し、採用コストの上昇も予想される。

企業の倒産や起業の動向も、人材戦略に影響を与えている。コロナ禍後の経済正常化に伴い、倒産件数は増加に転じており、2024年には年間11,000件に達する見通しだ。これは、資金繰り支援の縮小や、原材料価格の高騰が影響している。一方、起業環境は改善傾向にあり、新たなビジネスの創出が期待される。特に、情報関連投資を重視する企業が成長しやすい傾向があり、スタートアップ企業の採用活動にも注目が集まっている。

日本の起業率は、欧米諸国に比べて低いが、起業後の生存率は高いことが特徴だ。起業後4年後の生存率は90%以上と、米国や欧州の50%程度と比べて高水準を維持している。このため、既存企業は、新たな競争相手の台頭に備えるとともに、スタートアップとの協業やM&Aを通じた成長戦略を検討する必要がある。

こうした状況を踏まえると、企業の採用担当者にとって、2024年は人材獲得戦略を抜本的に見直す必要がある年となる。賃金水準の引き上げだけでなく、働きやすい環境の整備や、キャリアパスの明確化が求められる。また、転職市場の変化や、スタートアップの動向を把握し、自社に適した人材の確保に向けた柔軟な対応が必要となるだろう。

⇒ 詳しくは内閣府のWEBサイトへ