2024年9月20日
労務・人事ニュース
2024年美容室倒産が前年比1.5倍、過去最多200件超えの危機
帝国データバンク「「美容室」の倒産動向(2024年1-8月)」(2024年9月3日)
2024年に入ってから、美容業界、特に美容室の倒産が急激に増加しており、その傾向は深刻なものとなっています。最新の調査によると、2024年1月から8月までに発生した美容室の倒産件数は139件に達し、前年同期比で約1.5倍に増加しています。これは、過去最多となった2019年の166件を大幅に上回るペースであり、このままのペースで進むと、年間倒産件数が初めて200件を超える可能性があります。
この倒産増加の背景には、いくつかの要因が複雑に絡み合っています。まず、ここ数年、新規開店が相次ぎ、美容室間の競争が激化していることが挙げられます。市場が飽和状態に近づき、顧客の奪い合いが激しくなる中で、多くの美容室が十分な利益を確保することが難しくなってきています。また、円安や原材料費の高騰が追い打ちをかけ、特にシャンプーなどの美容資材の価格が急上昇しています。さらに、スタイリストや他の専門スタッフの人件費も上昇傾向にあり、これらのコスト増が経営を圧迫しています。
こうしたコスト増を受けて、多くの美容室が施術料金を値上げせざるを得ない状況に追い込まれています。しかし、日本政策金融公庫の調査によれば、施術費用の引き上げを行った美容室の8割が「利益は不変または減少した」と報告しており、価格転嫁が難航している現状が浮き彫りになっています。この結果、多くの美容室が不安定な経営を強いられており、2023年度の業績を見ると、4割の美容室が赤字を計上している状況です。
さらに、家計の節約志向が強まる中で、美容室の利用に対する支出も抑えられる傾向が見られます。特に、女性のヘアスタイルのトレンドが洗髪しやすいショートカットへと移行していることが影響しています。このスタイルの変化により、比較的低価格なカットサービスの需要は安定しているものの、パーマやカラーなどの高単価メニューの利用が減少しています。実際に、支出額ベースで見ると、カットに比べてパーマの支出が顕著に減少しており、このことが美容室の売上にさらなる打撃を与えています。
現在、多くの美容室は、顧客離れを懸念して値上げを見送っているものの、コスト増に耐え切れずに市場から撤退するケースが相次いでいます。このままでは、倒産件数がさらに増加することが予想され、特に経営基盤の弱い中小規模の美容室が次々と閉店に追い込まれる可能性があります。
美容室業界がこのような厳しい状況に直面している中で、生き残りをかけた戦略が求められています。コスト削減の取り組みや、付加価値の高いサービスの提供など、各店舗が自らの強みを活かした差別化を図ることが重要です。また、デジタル化やオンライン予約システムの導入など、顧客利便性を向上させる施策も求められています。
一方で、業界全体としても、資材費や人件費の高騰に対する対応策を講じることが急務です。例えば、業界団体を通じて、共通仕入れや価格交渉を行うことで、コスト削減を図ることが考えられます。また、政府や地方自治体による支援策の活用も重要であり、特に中小企業向けの補助金や低利融資制度の利用が求められています。
2024年の美容室倒産動向は、美容業界全体の構造的な課題を浮き彫りにしており、今後の市場動向に注視が必要です。業界が一丸となって取り組むべき課題は山積していますが、これらの課題を克服し、持続可能なビジネスモデルを構築することが、長期的な成長の鍵となるでしょう。
⇒ 詳しくは帝国データバンクのWEBサイトへ