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2024年11月16日

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2024年財政検証が示す女性労働者増加と共働きの年金対策

『社会保障研究』第9巻第2号 多様な働き方によって変わる将来の年金額と今後の課題 ―女性労働者と短時間労働者の増加についての考察(社人研)

日本の年金制度の課題と今後の展望について、特に女性労働者や短時間労働者の増加に伴う影響に焦点を当てて詳述されています。具体的には、働き方が多様化する中で、公的年金の役割がどのように変化し、将来の給付額が影響を受けるか、さらには個人や社会がどのような対応を取るべきかについての考察がなされています。

まず、女性労働者の増加と正規雇用の継続が、公的年金にどのような影響を及ぼすかが重要なテーマとして取り上げられています。日本の雇用システムは長らく「男性稼ぎ主モデル」に依存してきましたが、女性の労働参加が進むに連れて、共働き世帯が増加しつつあります。2023年の調査では、女性の正規雇用率は年齢層によって異なりますが、若年層の正規雇用率が上昇傾向にあることが確認されています。これは、厚生年金の被保険者期間が長くなることを意味し、結果として年金額が増加することにつながります。

次に、短時間労働者の増加も重要なテーマです。短時間労働者の大部分は非正規雇用であり、主に家計を補助する立場として就業していた過去とは異なり、現代では主たる生計維持者として働くケースが増加しています。これに伴い、厚生年金の適用を拡大することで、防貧機能を強化し、将来の年金額を増やす取り組みが行われています。特に、2024年の改正により、従業員規模50人以上の企業で働く短時間労働者も厚生年金の適用対象となるなど、年金制度の包括性が高まっています。

さらに、共働き世帯が増加する中で、夫婦が共に厚生年金に加入することが高齢期の経済的安定に寄与するとの指摘もされています。共働き世帯の場合、世帯収入が増加し、結果として年金額も増えるため、防貧機能が強化されることが期待されます。共働きによって世帯全体の年金額が向上するため、特に女性の労働参加が推進されています。

また、繰下げ受給の活用についても検討されています。繰下げ受給を活用することで、年金額を増額し、長寿リスクに対する備えとすることができるとされています。例えば、70歳まで繰下げると年金額が1.42倍、75歳まで繰下げると1.84倍となるため、健康で働き続けられる場合には、経済的な安定を得やすくなります。しかし、繰下げ受給の利用者はまだ少なく、今後、制度の周知やメリットの理解を促進する必要があると指摘されています。

一方、国民年金第3号被保険者制度については、公平性に関する批判が依然としてあります。この制度は、自らの保険料を支払わなくても基礎年金を受給できるため、保険料負担の公平性を欠くとの指摘がなされる一方で、共働きが難しい状況にある人々を支えるための重要な仕組みとしても機能しています。そのため、今後は短時間労働者への被用者保険の適用拡大を進め、第3号被保険者制度の必要性を見直しつつも、制度自体は維持すべきという意見が出されています。

このような年金制度の課題を踏まえ、特に短時間労働者の増加に対応した被用者保険の適用拡大が進められてきました。2016年以降、適用要件が段階的に緩和され、対象となる労働者の範囲が拡大されてきたことにより、企業規模要件が50人以上に引き下げられた結果、70万人が新たに厚生年金の対象となりました。このような制度改正は、短時間労働者の防貧機能を強化し、基礎年金の給付水準を引き上げる効果があると期待されています。適用拡大が進むことで、短時間労働者の年金額も上昇し、高齢期の生活保障が強化されるとされています。

また、「年収の壁」についても触れられており、第3号被保険者が一定の収入を超えると社会保険料負担が発生するため、手取り収入が減少するという問題が指摘されています。これにより、社会保険の適用を避けるために就業調整を行うケースも少なくないため、制度の改善が求められています。

今後の日本の年金制度においては、働き方や生活環境の変化に柔軟に対応し、給付水準の安定を図ることが不可欠です。特に、共働き世帯や短時間労働者の増加に対して、適用拡大や制度の見直しを進めることで、社会全体の年金資産が一層安定し、世代間の公平性が確保されると考えられます。企業としても、これらの制度変化に伴い、社員の年金制度への理解を促進し、働きやすい環境を整えることが求められます。年金制度の改正が、労働者一人ひとりの将来の生活保障にどのように寄与するかを理解し、雇用者としての責任を果たすことが重要です。

⇒ 詳しくは国立社会保障・人口問題研究所のWEBサイトへ

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