2024年11月17日
労務・人事ニュース
2024年6月の全国医科医療費1.0%減少、入院費増加で地域格差拡大
最近の医科医療費(電算処理分)の動向(令和6年度6月号)(厚労省)
厚生労働省は毎月、医科医療費の動向を把握するため、レセプトを基に医科医療費の電算処理分のデータを集計し公開しています。2024年6月分のデータによると、全国の医科医療費の対前年同月比は減少傾向が見られ、総医療費は前年同月比で1.0%減、受診延日数も2.7%減少しました。一方、1日あたり医療費は前年同月比で1.7%増加しており、コストの増加傾向が示されています。
診療種類別にみると、入院医療費が前年同月比で2.1%増加した一方で、外来医療費は4.4%減少しており、医療需要が入院に集中していることが分かります。これは医療の提供体制や患者の受診行動の変化によるものである可能性が高いです。入院においては受診延日数が0.6%増加している一方、1日あたり医療費は1.4%上昇しており、患者の滞在期間や医療提供の内容がよりコスト高になっていることがうかがえます。
制度別の医療費の動向も興味深い結果が出ています。被用者保険加入者の医療費は2.5%減少し、国民健康保険加入者の医療費は5.7%減少しましたが、後期高齢者医療制度における医療費は2.4%増加しています。後期高齢者の医療費が増加している背景には、高齢者の医療需要が高まっていることが考えられます。一方で、公費負担の医療費はほぼ変わらず安定しています。この結果から、高齢化の進展に伴い、今後も後期高齢者向け医療サービスの増加が見込まれることが示唆されます。
また、医療機関の種類別にみると、大学病院での医療費が2.2%増加し、特に入院医療費の増加が顕著で4.8%に達しました。公的病院においては0.4%の減少、法人病院は0.4%増加しており、施設ごとに異なる傾向がみられます。特に医科診療所では外来医療費の減少が目立ち、外来医療費全体の縮小傾向が続いています。200床未満の病床数を有する病院は0.9%の増加、200床以上の病院は0.1%の微増となっており、小規模病院が医療提供の中核を担っていることがうかがえます。
さらに、年齢別に医療費の内訳を見ると、75歳以上の高齢者層における医療費が大きく、全体の医療費の約6割を占めています。特に85歳以上の年齢層においては医療費の割合が増加傾向にあり、医療費の高齢者偏重が顕著です。これは、医療技術の進展と平均寿命の延びにより、高齢者の治療や長期入院が増加していることが影響していると考えられます。これに対し、0〜14歳の年齢層における医療費は全体の約5%で比較的低水準にとどまっており、若年層の医療利用が抑制されている傾向が確認できます。
都道府県別に見た医科医療費の動向では、地域差も明らかになっています。例えば、都市部では全体的に医療費が増加しており、特に東京、大阪、福岡などの主要都市で顕著です。一方、地方都市や人口減少地域では、医療費が減少傾向にあり、地域格差が拡大しています。この背景には、地方の医療機関の減少や医療従事者の不足があると考えられ、地方の医療体制の強化が急務とされています。
また、診療内容別の医療費の動向にも目を向けると、薬剤費が前年同月比で3.3%減少し、検査費用も4.6%減少しました。手術および麻酔費用は1.4%の減少を示しており、医療現場での治療費用の抑制が行われていることが分かります。これは医療機器や薬剤の効率的な使用、または治療方法の見直しが進められていることが一因かもしれません。一方、包括支払い制度(DPC)による支払い部分は6.0%増加しており、効率的な医療提供の促進が図られています。包括支払い制度は医療費の抑制効果が期待される一方で、患者の診療内容に応じた適切な医療提供が求められるため、今後もこの分野での管理が重要です。
今後の医療費動向を予測する上で、少子高齢化の影響や医療制度改革の進展が大きな課題です。特に、高齢者人口の増加に伴う医療費のさらなる増加が見込まれる中で、制度の持続可能性を確保するためには、医療サービスの効率化や地域医療の充実が求められます。さらに、医療技術の進展やデジタルヘルスの普及により、遠隔医療やAIを活用した診療支援が増加することで、コストの削減や医療アクセスの改善が期待されています。これにより、医療サービスの質を維持しつつ、地域間格差を縮小し、医療資源の最適化を図ることが求められるでしょう。
以上のように、厚生労働省が公表した2024年6月の医科医療費データは、医療費の総額や内訳、そして地域・年齢・診療内容別の傾向を示しており、今後の医療政策や制度改革において参考となる重要なデータといえます。これらのデータを活用し、医療提供体制の効率化と地域ごとの医療ニーズに即した対応を行うことで、持続可能な医療制度の実現が期待されます。
⇒ 詳しくは厚生労働省のWEBサイトへ