2024年10月4日
労務・人事ニュース
2024年7月調査、価格転嫁が「全くできない」企業が13.0%に達し業界別の課題が浮き彫りに
帝国データバンク「価格転嫁に関する実態調査-価格転嫁の状況分析(2024年2月・7月比較)-」(2024年9月26日)
2024年に実施された帝国データバンクの調査では、日本の企業における価格転嫁の状況について注目されています。特に、2024年2月と7月に連続して行われた価格転嫁の割合に関する調査結果が明らかになりました。この調査は、全国の企業がコストの上昇にどのように対応しているかを探るものであり、その結果として、価格転嫁の困難さが浮き彫りになっています。特に、コストの上昇に対して企業がどの程度価格転嫁を行えるかという点において、様々な産業で異なる結果が見られました。
まず、2024年7月の調査では、価格転嫁率の平均は44.9%と報告されています。これは、2024年2月に比べて4.3ポイントの上昇を示しているものの、企業の間では依然として価格転嫁に関して課題が残っている状況です。具体的には、「全く価格転嫁ができない」と回答した企業が1割を超えており、多くの企業が価格転嫁を進めることに困難を感じていることが示されています。
調査では、7,675社を対象に価格転嫁状況の変化が分析されました。その結果、価格転嫁が「拡大」した企業は32.4%であり、「縮小」した企業は20.8%にとどまりました。また、46.7%の企業は「横ばい」であり、大きな変動は見られませんでした。さらに詳しく見ると、「拡大」した企業の中で最も多かったのは「2割未満」から「2割以上5割未満」へと転嫁が進んだケースであり、その割合は7.4%でした。一方、「縮小」した企業では、「8割以上」から「5割以上8割未満」への変化が4.2%と最も高くなっていました。
半年程度では大きな変化が見られないという結果から、多くの企業がコストの上昇に対して価格転嫁を進めるのに苦労していることが分かります。特に、原材料費やエネルギー価格の上昇、人件費の増加といったコストが企業の利益に直接影響を与えており、それに対して価格を上げることが難しい状況です。企業からは「交渉により徐々に単価の見直しができてきている」という声が聞かれる一方で、「医療機関のため、価格転嫁は難しい」など、業界によっては価格転嫁が非常に困難であることが示されています。
特に、価格が公定されている医療や介護、報酬が定められている業界では、コスト上昇分を価格に転嫁することが難しいとされており、企業の負担が増加している状況です。このような状況は、今後さらに深刻化する可能性があり、持続的な企業活動に影響を与える懸念が広がっています。
また、2024年2月に「全く価格転嫁できない」と回答した企業の中でも、7月に同様の回答をした企業は50.5%にのぼりましたが、残りの49.5%の企業では、多少なりとも価格転嫁が進んでいることが確認されました。特に「5割以上」転嫁ができている企業は9.4%であり、これらの企業では状況が好転している兆しが見られます。このように、完全に価格転嫁ができていなかった企業でも、少しずつ価格の引き上げが可能になってきているのです。
企業が価格転嫁を進めるためには、まず取引先との交渉が鍵となります。しかし、コスト上昇をそのまま価格に反映させることは、取引先や消費者の離反を招く可能性があるため、多くの企業は慎重に対応している状況です。特に、消費者向けの製品やサービスを提供する企業にとって、価格の上昇は消費者の購買意欲を減退させる恐れがあり、企業にとってはリスクの高い決断となります。
こうした背景の中、今後の最低賃金引き上げや賃上げの実現に向けて、継続的な価格転嫁の拡大が求められています。企業が持続的な成長を遂げるためには、コスト上昇を適切に転嫁することが不可欠であり、そのためには価格設定の見直しや取引先との交渉力の強化が重要となるでしょう。特に、中小企業にとってはこの課題はより深刻であり、取引先との価格交渉において十分な体制を整えることが急務とされています。
さらに、今後の経済環境がどのように変化するかにかかわらず、企業は柔軟に対応していくことが求められます。エネルギー価格の変動や国際的なサプライチェーンの影響など、外的要因によるコスト上昇は避けられないものの、それに対して企業がどのように対策を講じるかが将来の競争力に直結するためです。特に、デジタル技術を活用した効率化や生産性向上といった取り組みが、企業のコスト削減に大きく貢献する可能性が高いと言えます。
帝国データバンクの調査結果は、価格転嫁に対する企業の対応がいまだ十分でないことを示していますが、一部の企業では改善の兆しも見られています。今後の経済動向や政策変更に対応しながら、価格転嫁を進めていくための体制整備が求められている中で、企業にとって持続可能な成長戦略を構築するための鍵となる要素は、引き続き注目されるでしょう。
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