2024年9月4日
労務・人事ニュース
2024年7月調査 正社員不足が51.0%、ITエンジニアを中心に情報サービス業で71.9%の企業が危機感

帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2024年7月)」(2024年8月22日)
2024年7月に実施された帝国データバンクの調査によると、日本の企業における人手不足が依然として深刻な問題として浮き彫りになっています。調査の結果は、全国の企業に対して正社員と非正社員の雇用状況に関するアンケートを基にしていますが、その内容は日本経済の現在の労働市場の現状を如実に反映しています。
正社員の不足を感じている企業の割合は全体で51.0%に達しており、この割合は依然として5割を上回る状態が続いています。これは、労働市場におけるミスマッチや、特定の職種に対する需要の高まりが原因となっていると考えられます。業種別に見てみると、特にITエンジニアの不足が深刻であり、「情報サービス」業界では71.9%の企業が正社員不足を感じていることが明らかになりました。この業界が他の業界に比べて特に高い割合を示している背景には、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進や、それに伴うシステム開発の需要の急増があると考えられます。多くの企業がITエンジニアの採用に苦労している一方で、競争が激化する中での人材確保は、企業経営における重要な課題となっています。
さらに、2024年問題に直面している「建設」業界でも69.5%の企業が正社員不足を感じており、これは7割に迫る水準です。この問題は、労働時間の上限規制の強化や、高齢化が進む労働者層の退職に伴う人手不足が背景にあります。特に大規模な建設プロジェクトが進行中の地域では、地元の建設業者が人手不足により業務の遂行に支障をきたしている事例が多く見受けられます。また、インバウンド需要が旺盛な「旅館・ホテル」業界においても、65.3%の企業が正社員不足を感じており、この状況が観光業界の成長を阻む一因となっています。観光業界では、訪日外国人観光客の増加に伴い、接客やサービス業務を担う人材の確保が急務となっています。
一方、非正社員の不足を感じている企業の割合は28.8%となり、7月としては2年ぶりに3割を下回る水準となりました。このデータは、非正社員を中心に人手不足が若干緩和されつつあることを示していますが、それでも依然として高い水準にあります。特に「飲食店」業界では67.5%の企業が非正社員の不足を訴えており、これは依然として高い割合です。しかし、前年同月から10ポイント以上の改善が見られており、これは業界全体で進められている省力化や合理化の取り組みが効果を上げている結果と考えられます。飲食業界では、コロナ禍を経て雇用形態が変化しており、より効率的な運営を目指す企業が増えたことがこの改善に寄与している可能性があります。
さらに、他の業種別に見ると、スーパーマーケットや百貨店が含まれる「各種商品小売」業界でも非正社員の不足が顕著であり、65.1%の企業が不足を感じています。また、「人材派遣・紹介」業界や「メンテナンス・警備・検査」業界でも非正社員の不足が目立っており、それぞれ58.6%、55.3%の企業が人手不足を感じています。これらの業界では、労働力の流動化が進む中で、特に専門性の高い人材の確保が困難になっていると考えられます。
この調査結果は、企業が直面する人手不足の問題が業種によって大きく異なることを示しており、特にIT関連や建設業界での深刻さが浮き彫りになっています。今後、企業は労働力不足に対応するための省力化や合理化投資をさらに進める必要があります。また、労働市場の流動化が進む中で、企業は労働者にとって魅力的な職場環境を整えることが求められます。これは、単に賃金を上げるだけでなく、働きやすさやキャリアアップの機会を提供するなど、総合的な施策が必要とされます。
特に、ITエンジニアなど高度なスキルを要する職種においては、専門人材の育成や海外からの人材受け入れを強化することが急務です。また、建設業界では、2024年問題を見据えた持続可能な労働環境の構築が重要となります。これには、労働時間の見直しや、高齢化した労働者層の知識と経験を次世代に継承するための仕組み作りが含まれます。
一方で、飲食業界のように、省力化や合理化の取り組みが一定の成果を上げている業界もありますが、これらの取り組みが広く普及し、労働市場全体に影響を与えるには時間がかかると考えられます。そのため、政府や業界団体による支援策の拡充も必要です。
この調査は、全国2万7,191社を対象に行われ、1万1,282社から有効回答を得ました。詳細なデータは、帝国データバンクのウェブサイト「景気動向オンライン」に掲載されています。企業にとって、これらのデータは労働力確保に向けた戦略を立てる上で非常に重要な情報となるでしょう。今後の経済環境の変化や労働市場の動向を注視しつつ、企業は柔軟に対応していくことが求められます。
全体として、この調査結果は日本の労働市場が抱える構造的な課題を浮き彫りにしており、企業はその課題に対応するための具体的な対策を講じる必要があります。特に、人手不足の解消に向けた中長期的な視点を持つことが、企業の競争力を維持し、持続的な成長を実現するためには不可欠です。
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