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2025年7月15日

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2025年6月時点で個人事業所も全業種が適用対象に、常時5人以上で社会保険加入義務

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社会保険の加入対象の拡大について(厚労省)

令和7年6月13日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」が第217回通常国会で成立し、これに伴い社会保険制度の大幅な見直しが決定された。この改正により、これまで適用外とされてきた多くの短時間労働者も社会保険(厚生年金・健康保険)に加入できるようになり、企業の人事戦略や雇用制度に大きな影響を与えることが見込まれる。企業の採用担当者にとって、今回の制度改正は、これまでの採用方針を再考し、従業員の処遇や働き方の多様化への対応を進めるきっかけとなる重要な転換点である。

現行の社会保険制度では、社会保険の加入対象となるのは、原則として適用事業所に常時雇用される正社員と、所定の要件を全て満たした短時間労働者に限られていた。短時間労働者の場合、週の所定労働時間が20時間以上であること、月収が8.8万円以上であること、勤務期間が1年以上見込まれること、学生ではないこと、さらに従業員が常時101人以上の企業に勤めていることといった、いくつもの条件を満たす必要があった。そのため、多くのパート・アルバイト従業員は社会保険の適用外とされてきた。

しかし、今回の法改正ではこれらの加入要件が大きく緩和され、社会保険の適用対象が一層広がることになる。まず、最も大きな変更点として、短時間労働者に対する企業規模要件が段階的に縮小・撤廃されることが挙げられる。これまで、従業員が101人以上いる企業でなければ社会保険の対象とならなかったが、今後は10年かけてこの要件が撤廃され、最終的には規模に関わらず、週20時間以上働くすべての労働者が対象になる見込みである。この変化は、特に中小企業や小規模事業者にとって大きな影響を及ぼすこととなる。

また、「年収106万円の壁」として広く知られていた、月収8.8万円以上という賃金要件も撤廃される。これにより、働き方を制限する必要がなくなり、労働者は年収を気にせず柔軟な就業が可能となる。賃金要件の撤廃は、法律の公布から3年以内に実施される予定で、全国の最低賃金が1,016円以上に達することが判断の基準となる。これは、最低賃金がこの水準に達した地域で週20時間働いた場合、年収がおおよそ106万円となることを踏まえた対応である。

さらに、個人事業所についても適用範囲が拡大される。従来は、常時5人以上の労働者を雇用し、かつ法定17業種に該当する事業所に限られていたが、改正後は業種に関わらず、常時5人以上を雇用していればすべての個人事業所が社会保険の適用対象となる。ただし、この規定は2029年10月以降に設立された新規事業所から適用され、それ以前から存在する事業所については当分の間、適用外とされる見込みである。

社会保険に加入することによって、労働者には多くのメリットが生じる。厚生年金に加入すれば、基礎年金に加えて厚生年金を終身で受け取ることができ、将来の生活設計に大きな安心をもたらす。また、健康保険に加入することで、病気やけが、出産などで仕事を休んだ際にも収入の一部が保障される制度が利用できる。実際に、収入保障として支給される傷病手当金や出産手当金は、就労が不可能な期間において生活の安定を支える重要な役割を果たしている。

一方で、こうした制度変更に伴い、短時間労働者の間で就業調整の動きが生じることが懸念されている。これに対し、国は支援策として保険料の負担軽減措置を導入する。対象となるのは、従業員数50人以下の企業で働く短時間労働者であり、新たに社会保険の加入対象となった者のうち、標準報酬月額が12.6万円以下の者が対象となる。この制度では、通常労使折半で支払う保険料のうち、事業主が追加で負担した分については全額を国が補填する仕組みが設けられており、制度開始から3年間限定で運用される予定である。

さらに、配偶者の扶養、すなわち第3号被保険者の制度との関係についても、多くの関心が寄せられている。週20時間以上働く場合、社会保険への加入が義務づけられることで、これまで配偶者の扶養に入っていた労働者も自身で保険料を支払う必要が生じる。しかし、厚生年金に加入すれば、将来的には基礎年金に加えて厚生年金が支給され、また健康保険からの手当金なども充実するため、長期的にはメリットが大きいといえる。ただし、週20時間未満で働く場合には原則として社会保険の加入対象とはならず、短期間の残業などで一時的に超えるだけでは加入義務は発生しない。しかし、その状態が2か月を超えて継続するようであれば、加入対象になる可能性がある。また、年収が130万円を超えると、たとえ20時間未満で働いていても扶養から外れる可能性があるため、各自の働き方と収入水準を慎重に見極める必要がある。

このような社会保険制度の改革は、単なる法制度の見直しにとどまらず、労働市場全体の構造に影響を及ぼす可能性が高い。企業にとっては、今後短時間労働者の採用や就業時間設定の見直しが必要になるだけでなく、福利厚生や雇用制度の整備も求められることになる。特に、中小企業や個人事業主にとっては、新たな負担が発生することとなるため、行政の支援策を活用しつつ、制度への理解を深め、早期に対応を進めることが求められる。

⇒ 詳しくは厚生労働省のWEBサイトへ

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