2025年3月2日
労務・人事ニュース
2032年までにSTCW条約改正が完了!企業の採用計画に求められる新対応
STCW条約包括的見直しの具体的な改正案の検討開始 ~国際海事機関(IMO)第11回人的因子訓練当直小委員会の結果概要~(国交省)
国際海事機関(IMO)第11回人的因子訓練当直小委員会(HTW 11)が2025年2月10日から14日にかけて英国ロンドンで開催され、STCW条約の包括的見直しに関する議論が進展した。STCW条約は、船員の訓練、資格証明、当直の基準を定めた国際条約であり、世界各国の海運業界にとって極めて重要な枠組みである。今回の会合では、改正すべき500以上の検討項目が選定され、今後の具体的な改正作業の方針が合意された。
STCW条約の包括的見直しは、2023年2月にEU加盟国やオーストラリア、カナダ、フィリピン、シンガポール、国際海運会議所(ICS)、国際海事大学連合(IAMU)が提案した新たな作業計画に基づいて進められている。前回の会合では、見直し対象となる分野のリストが確定され、包括的見直しの方法論やロードマップ案が策定された。今回の会合では、資格証明におけるシミュレータ訓練のあり方や、バラスト水処理装置に関する能力基準など、多岐にわたる項目について検討が行われた。その結果、STCW条約附属書第2章(船長及び甲板部に関する資格要件)および第3章(機関部に関する資格要件)の改正案を次回会合(HTW 12)までに各国が提出することが求められた。
また、会期間中間作業部会(ISWG-STCW 2)をHTW 12の会合直後に開催することが合意され、STCW条約に基づく独立評価とIMO加盟国監査(IMSAS)の制度の在り方に関する見直しについても、新たに会期間通信作業部会(CG)が設置されることとなった。さらに、今回の会合では2031年または2032年の改正条約案の採択を目指し、改正作業を三段階に分けて進めるロードマップが確定した。第1段階では2026年から2027年にかけてSTCW条約附属書第2章および第3章の改正を進め、第2段階では2028年から2029年にかけて附属書第1章(一般規定)、第4章(無線通信士に関する資格要件)、第6章(非常事態や医療等に関する訓練要件)について検討する。第3段階では、2030年から2031年にかけて附属書第5章(特定の船舶の乗組員に対する訓練要件)、第7章(選択的資格証明)、第8章(当直に関する基準)の改正を行い、2031年夏のMSC 119で改正条約案を承認する予定だ。
加えて、代替燃料や新技術を用いる船舶の乗組員に対するガイドライン策定についても議論が行われた。近年、海運業界では温室効果ガス(GHG)排出削減のために、アンモニアや燃料電池などの新技術を採用する動きが活発化している。このような変化に対応するため、STCW条約の見直しとは別に、代替燃料を使用する船舶の乗組員向けの訓練規定の策定が開始された。今回の会合では、共通ガイドラインと個別の燃料・技術ごとの要件を定めるガイドラインを策定する方針が確定し、共通ガイドライン案が最終化された。このガイドライン案は、2025年6月に開催予定の海上安全委員会(MSC 110)に承認を求める形で上程される。
共通ガイドラインでは、すべての船員が船舶における特定の任務や通常・非常時の手順を熟知していることを求める内容が盛り込まれた。さらに、燃料の流出防止、火災時の対応、安全対策の適用などについての訓練要件が定められた。また、船舶の燃料管理や推進プラントの運用に責任を持つ者には、高度な訓練を受けることが義務付けられる。個別の燃料・技術ごとの要件については、IMOの貨物運送小委員会で審議が進められており、メタノールやエタノールに関する訓練要件の議論が開始されたものの、今回の会合では最終合意には至らなかった。引き続き会期間通信作業部会(CG)を通じて検討が継続されることが決定された。
さらに、日本代表団の一員である(一財)海技振興センターの職員が、外国人船員向けに作成したハラスメントやいじめ防止のためのビデオ教育教材を紹介するプレゼンテーションを実施した。このプレゼンテーションには各国から多くの参加者が集まり、高い関心が寄せられた。ビデオ教材はオンラインで公開されており、海運業界における職場環境の改善に貢献することが期待されている。
今回のHTW 11の成果は、海運業界全体に影響を与える重要なものであり、特に企業の採用担当者にとっても注目すべき点が多い。今後、STCW条約の改正が進むにつれ、船員の資格要件や訓練制度が大きく変化する可能性があるため、企業としては最新の動向を注視し、適切な対応を講じる必要がある。
⇒ 詳しくは国土交通省のWEBサイトへ