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2025年4月24日

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学習支援事業の実施率66%、人口3万人未満では未実施率77%に達する教育格差の現実

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『社会保障研究』第9巻第4号「特集:困難を抱える子どもたちへの支援と子どもの権利の保障~こども基本法の制定・こども大綱の策定を受けて~」(社人研)

現代の企業が社会的責任を果たすにあたり、単なる利益追求だけでなく、地域や社会とのつながり、特に次世代を担う子どもたちへの支援に対する関心が高まっています。とりわけ、貧困や困難な家庭環境にある子どもたちの成長機会を保障することは、企業にとっても重要な社会的使命の一つといえるでしょう。2025年に発行された『社会保障研究』第9巻第4号では、学習支援事業を通じた子どもの権利保障の実態と課題が詳細に分析されており、その中には企業の人事・採用戦略や地域貢献活動にとっても示唆に富む内容が多く含まれています。

特に注目されるのは、学習支援事業の制度的変遷とその実施状況に表れた地域間格差です。2023年度の全国実施率は約66%と、依然として3分の1近い自治体が未実施であるという現実が浮き彫りになっています。さらに、小規模自治体ほど学習支援事業の実施率が低く、人口3万人未満の自治体では76.8%が未実施という厳しい状況です。これは、経済的に困難な状況に置かれた子どもたちが住んでいる地域によって、学習支援を受けられるか否かが決まってしまうという、機会の不平等を象徴しています。

学習支援事業はもともと、1987年に東京都江戸川区で開始された「中3勉強会」に端を発します。当初は生活保護家庭の子どもたちを対象に、ボランティアと福祉関係者が協力し、学習の遅れを補う場を提供していました。この活動は、学校教育では対応しきれない問題を抱える子どもたちにとって重要な「社会的居場所」であり、進学機会や将来の安定就労への道を広げる役割を果たしてきました。

しかし近年、この原点とも言える支援の理念が揺らいでいます。法制度化された後、学習支援事業は地方自治体による委託運営に移行し、事業の実施には財政負担が伴うことから、人口規模が小さい自治体では運営そのものが困難となっています。さらに、事業の市場化も進んでおり、2023年度には支援事業の委託先のうち株式会社等が占める割合が25.3%と、2015年度の7.2%から大幅に増加しました。一方で、NPO等による運営割合は34.5%と微減にとどまっており、地域に根ざした活動が縮小傾向にあることがわかります。

事業の市場化に伴い、進学率などの数値指標を重視する「成果主義」の傾向が強まりつつあります。これにより、最も支援を必要とする学力下位層の子どもたちが排除される懸念も出てきました。例えば、江戸川区では2024年に開始された『EDO塾』が、年収500万円未満の家庭から成績優秀者を選抜し、難関高校合格を目指すプログラムを実施していますが、これは競争主義的な色彩が強く、本来の支援対象から外れる子どもが増える可能性が指摘されています。

こうした状況は、企業にとっても無関係ではありません。次世代の育成が不十分であるということは、将来的な労働力不足や人材の質の低下にも直結するため、地域の教育・福祉環境に目を向けることは企業の持続可能性に直結する課題です。また、採用活動においても、多様な家庭環境や教育機会の格差を理解し、それに配慮した評価軸の導入が求められる時代になっています。

学習支援事業の実施状況を見ると、2023年時点で全国に2,324か所が設置され、延べ39,730人の子どもが参加しています。中学3年生の進学率は98.8%と非常に高く、支援の効果が数字にも表れています。これは、適切な支援を受けられた子どもが、自らの力を発揮し将来に希望を持てる環境に変化していることを示しています。一方で、人口3万人未満の自治体ではいまだ約77%が事業を実施していないという状況があり、国レベルでの必須事業化や財政的な補助率の見直しが急務とされています。

企業がこれらの課題に貢献できる可能性は多く存在します。たとえば、CSR活動の一環として地元自治体と連携し、学習支援教室の開設やボランティアの派遣、教材の提供などを行うことは、地域への直接的な貢献となります。また、採用面接時において家庭環境や教育機会に関する背景を把握し、多様な経験を尊重する評価軸を取り入れることで、真にポテンシャルの高い人材を見抜く力にもつながります。

特に重要なのは、「学習権」や「発達の権利」といった子どもの基本的権利が、地域や家庭の事情によって左右されないようにするための仕組みづくりです。子どもの権利条約では、すべての子どもに人格的・精神的・身体的な能力を最大限に発展させる機会を保障することが明記されており、日本もこの理念を国内政策に反映することが求められています。企業は、この理念を共有し、社会における公平な環境づくりに参画する姿勢が今後ますます問われることになるでしょう。

その意味で、学習支援事業は単なる福祉政策ではなく、未来の労働力の基盤を築く社会的インフラの一つと捉えることができます。企業が地域の教育環境に関心を持ち、課題に向き合うことは、単なる善意ではなく、戦略的な投資とも言えるのです。

⇒ 詳しくは国立社会保障・人口問題研究所のWEBサイトへ

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