2025年4月24日
労務・人事ニュース
権限のある職種は健康リスクが低い傾向、O-NET分析で明らかに
- 「ブランクOK」/准看護師・正看護師/介護施設/残業ありません
最終更新: 2025年5月1日 22:32
- 介護支援専門員/ケアマネージャー/日勤のみ
最終更新: 2025年5月2日 03:01
- 診療放射線技師/2025年5月2日更新
最終更新: 2025年5月2日 08:32
- 「駅チカ」/准看護師・正看護師/介護施設/夜勤なし
最終更新: 2025年5月1日 22:32
働き方と生活・健康の課題 ―JILPT個人パネル調査の分析―(JILPT)
2025年3月31日に公表された「働き方と生活・健康の課題―JILPT個人パネル調査の分析―」は、人口減少や少子高齢化、さらにはデジタル化の進展といった現代日本が直面する構造的な変化を背景に、働く人々の健康や生活に対する影響をデータに基づいて明らかにする重要な報告書である。本調査は35歳から54歳の男女を対象にした大規模パネル調査で、3回にわたる追跡データに基づき、働き方、職業特性、キャリアの移動、睡眠時間、テレワークの変化など、多面的な視点から労働と健康の関連を分析している。
まず、調査においては、働く者の身体的・精神的健康を測るために、身体症状(SSS-8)やメンタルヘルス(K6)といった医学的尺度を用いた定量的分析が行われた。職業特性を示す指標としては、日本版O-NETから抽出された80項目のデータに基づき、「権限」「身体活動」「対人業務」「正確性要求」「ライン作業」という5つの主成分が導き出されている。その結果、「権限」が強い職業に就いている人ほど、身体的・精神的な健康状態が良好であることが確認された。これは、自律的な働き方や裁量の広さが健康に良い影響を与えることを示しており、職場での働きがいの創出や意思決定への関与が、長期的な健康保持にも貢献する可能性を示唆している。
一方で、「身体活動」や「対人業務」が多い職業では、身体的な症状の発生リスクが高まる傾向があり、また「ライン作業」ではメンタルヘルスの悪化が顕著となる結果も出ており、労働内容が健康に及ぼす影響の違いが具体的に示された。
また、キャリアの初期段階から現在の職業に至るまでの「世代内移動」が健康にどう影響するかという視点も非常に興味深い。報告書によれば、上昇移動(たとえば非正規から正社員へ)や下降移動(逆に正社員から非正規へ)による影響は一様ではなく、精神的な健康に特に強い影響が見られた。出発点と到達点が異なることで、たとえ同じような移動でも影響の度合いが異なることが確認され、日本独自の職業階層構造や労働文化の影響が色濃く出ている点も注目される。
さらに、非典型時間帯労働、たとえば深夜勤務や早朝勤務、夜間勤務などが、勤務日の睡眠時間を短縮させるという結果も見逃せない。調査では、日中勤務を行っている労働者が最も適切な睡眠時間(6~8時間未満)を確保しやすく、反対に早朝・夜間勤務、特に深夜勤務を行う者では、勤務日の睡眠時間が著しく短くなりやすいことが確認された。また、勤務日と休日の睡眠時間の差が大きくなることも報告されており、これは健康リズムの崩れに繋がりやすいと考えられる。こうした睡眠不足が慢性化すれば、パフォーマンスの低下やメンタルヘルスの悪化を招く可能性があり、企業にとっても大きなリスク要因となる。
ポストコロナ時代のテレワークについての分析も行われており、感染症の分類変更に伴う出社回帰の動きが確認されている一方で、専門職や大卒者、都市部居住者を中心にテレワークが一定程度定着している実態が明らかとなった。特に企業内で両立支援施策が整っている場合には、テレワークが継続しやすい傾向があり、雇用管理の方針が個人の働き方に大きく影響を与えている。女性においては、テレワーク日数の変化と家事時間の変動との間に有意な関係が見られ、家庭内役割分担の影響を受けやすい実情が浮き彫りになった。これは性別役割分業の構造が、働き方の選択肢の制限要因になっていることを意味しており、今後の働き方改革には、家庭内の時間配分への配慮が必要不可欠であることが強調されている。
労働組合と仕事の質の関係についての分析では、組合の存在が必ずしも仕事の質全体に大きな影響を与えているわけではないという一方で、中小企業に限っては、勤務先に労働組合があり、かつ加入している場合に、仕事の要求に対して高い資源があると感じている傾向が強いことも判明している。つまり、組合は一部の企業規模や労働環境において、仕事の質を支える存在になり得るという可能性が示された。
これらの分析結果を踏まえれば、働き方と健康、生活の質の関係を捉えるには、時間的な働き方だけでなく、仕事の内容や権限の有無、家庭環境との関係、性別やキャリアパスの違いなど、多角的な視点からの評価が求められることが分かる。単に労働時間を短縮することや、福利厚生を整えることだけでは不十分であり、職場での権限の付与や柔軟な働き方の選択肢を保障するなど、より本質的な職場環境の整備が求められている。
働き方の多様化が進む現代社会においては、労働者一人ひとりの健康を守るために、働く内容・時間・場所・裁量・支援体制といった多面的な要素が総合的に整っていることが不可欠であり、本報告書はその方向性を示す大きな一歩といえるだろう。