2025年4月24日
労務・人事ニュース
母子世帯の貧困率に構造的偏り、10年間で高卒非正規層が急増
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最終更新: 2025年5月1日 22:32
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母子世帯の階層的分断の実相と趨勢 ―経済的自立と子どものウェルビーイングの課題―(JILPT)
2025年3月31日に公表された労働政策研究報告書「母子世帯の階層的分断の実相と趨勢」は、日本社会における母子世帯の経済的自立と子どものウェルビーイングの現状を捉えるとともに、今後の政策的方向性を深く考察したものである。本調査は、2011年から2022年まで実施された「子育て世帯全国調査」の結合データを基に分析されており、長期間にわたる動向の変化をデータとして把握できる点に大きな特徴がある。
まず注目されるのは、経済的な面での母子世帯の位置づけの変化である。この10年間で、表面的な数値では母子世帯の経済状況は一部改善されたように見えるものの、他の子育て世帯と比較すると、相対的な地位はむしろ悪化していることが確認された。特に、母子世帯の中でも初職が非正規雇用であった者が増加しており、構造的な貧困の固定化が進行している。また、二人親世帯では年齢やライフステージに伴って所得の向上がみられる一方で、母子世帯ではそうした傾向が乏しく、特にライフステージ後半における格差が拡大しているという実態が浮かび上がっている。
児童扶養手当制度の改正も調査の対象となっており、2018年に実施された全部支給の所得限度額引き上げにより、支給対象となる母子世帯は増加したものの、貧困率の改善や就業状況の大幅な変化にはつながっていないことが報告されている。これは政策が実際の生活改善に十分に結びついていないことを示唆しており、制度設計の見直しが求められる。
次に女性労働の視点からの分析では、学歴によってキャリアパスや就業構造に大きな違いがあることが明らかになっている。高卒以下のシングルマザーは「非典型一貫」キャリア、つまり非正規雇用からの継続的な低賃金就業にとどまる傾向が強いのに対し、短大卒以上では「正規継続」キャリアの割合が増加している。この違いは将来的な年収や就業安定性にも反映され、母子世帯内における学歴格差が経済的格差を生み出している実態が確認された。また、医療・福祉・教育分野での就業率が高い一方で、管理職や製造業、公務員等への進出は少なく、同じ学歴や職歴であっても父親に比べて年収が低い傾向が続いている。
さらに、自己啓発に関しては、母子世帯、特に短大卒以上のシングルマザーにおいて実施率が高い傾向が見られ、自己のスキルアップに向けた意識は強いことが明らかになっている。一方で、公的な職業訓練制度とのマッチングには課題があり、支援メニューと実際のニーズとの乖離が生じている。このことは、効果的な支援が本当に必要な層に十分に届いていない可能性を示唆しており、政策の再構築が求められている。
また、離婚や親子関係に関連する分析では、母子世帯における子どもへの時間的投資が全体的に少ない傾向にあり、経済的に比較的安定している高学歴層であってもその傾向に変化は見られない。むしろ高学歴層では、再婚世帯や末子の年齢が高くなるにつれて、初婚世帯との間で子どもへの関与に差が生じるという結果が確認された。加えて、就労している母親ほど育児放棄や体罰の経験がやや多いという結果も報告されており、経済的な自立と引き換えに親子関係が犠牲となるリスクが浮き彫りになっている。
このように本報告書では、母子世帯が直面する問題を「経済的貧困」だけでなく、「時間的貧困」や「親子関係の脆弱性」など、多面的な側面から包括的に分析している。その上で導き出された結論は、現在の支援策が十分な効果を発揮していないのではなく、限られた政策的リソースの中で対象者が限定的になっている点、つまり支援の「馬力」が不十分であるというものである。特に、就労支援に重きを置く施策は、高学歴層や比較的経済的に安定した層には効果を示す一方で、より困難な状況にある層に対しては届きにくい構造的問題がある。
今後求められるのは、母子世帯の多様性を踏まえた柔軟で重層的な政策の構築であり、経済的支援と非経済的支援、両面からのアプローチを併せ持った制度の再設計である。例えば、所得再分配を強化する社会保障制度や、セカンド・チャンスを実現するための柔軟なキャリア支援、さらには親子関係の健全な形成を支える家族福祉政策が連携し、包括的に展開されることが必要とされている。
母子世帯の経済的自立と子どもの健やかな成長を実現するためには、単なる就労促進にとどまらず、家族のあり方やライフステージごとの支援体制を再構築することが不可欠である。この報告書は、現場で日々シングルマザーを支援する福祉・労働政策の担当者や、制度設計に関わる行政官、さらには女性の雇用促進を担う企業の人事担当者にとって、今後の政策や実務を考える上で極めて示唆に富んだ内容となっている。