2025年3月6日
労務・人事ニュース
CCS事業法に基づく初の特定区域指定!日本のCO2削減戦略が新たなステージへ
CCS事業法に基づき、北海道苫小牧市沖の一部区域を特定区域として指定しました(経産省)
経済産業省は、2025年2月21日、二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)に基づき、北海道苫小牧市沖の一部区域を特定区域として指定し、試掘の許可申請の受付を開始した。この決定は、日本における二酸化炭素回収・貯留(CCS)技術の実用化を進める上で重要なステップであり、今後のカーボンニュートラル実現に向けた動きを加速させるものとなる。
CCS事業法では、経済産業大臣が貯留層が存在すると認められる区域について、CO2の貯蔵が公共の利益を増進すると判断した場合に、特定区域として指定できるとされている。特定区域に指定された地域では、試掘を実施する事業者が許可を受けるための申請を行い、適格性が評価された上で許可が下される仕組みとなっている。今回、北海道苫小牧市沖の一部区域がこの要件を満たすと判断され、特定区域として初めて指定された。
CCSとは、二酸化炭素を大気中に放出せずに回収し、地中に安全に貯留する技術であり、脱炭素社会の実現に向けた重要な手段の一つとされている。特に、産業活動から排出されるCO2を削減するために有効な手法として世界的にも注目されており、日本国内においてもその実用化が進められている。これまで日本では、CCSの実証試験として、北海道苫小牧市沖において2016年から2019年までの間に約30万トンのCO2を圧入する大規模実験が行われてきた。この実験では、CO2の分離・回収、圧入、貯留、モニタリングといった一連のプロセスが実施され、安全性や技術的な課題が検証された。今回の特定区域指定は、この実証試験の成果を踏まえ、さらなる本格的なCCS事業の展開を目指すための第一歩となる。
日本政府は、エネルギー基本計画やGX2040ビジョン(2025年2月に閣議決定)に基づき、2030年からCCS事業を本格的に開始することを目指している。そのため、政府は「先進的CCS事業」として、CCSのバリューチェーン全体に対する支援を一体的に行うことを決定しており、今回の特定区域指定もその一環である。また、2024年5月には、貯留事業の許可制度を含むCCS事業法が成立し、事業化に向けた制度整備が進められている。今回の指定により、具体的な事業環境の整備が本格化し、今後、試掘を経て、実際の貯留プロジェクトへと進展することが期待される。
CCS事業の実施にあたっては、試掘が極めて重要なプロセスとなる。試掘とは、地下の地層がCO2の貯留に適しているかを調査するために実施されるものであり、地層の掘削やサンプル採取を行うことで、貯留の可否を科学的に検証する作業である。試掘の結果に基づき、貯留層の適性が確認された場合、実際のCO2圧入・貯留に向けた事業計画が進められることになる。
試掘許可の申請が開始されたことにより、今後、事業者は許可取得を目指して申請を行い、経済産業省はCCS事業法上の許可基準に基づいて審査を実施する。審査の過程では、関係都道府県知事との協議や利害関係者からの意見募集などが行われ、環境面や安全面の観点から慎重な検討が進められる。その後、適切な事業者が選定され、試掘が許可される見込みである。
今回の北海道苫小牧市沖でのCCS事業は、日本のCCS技術の発展にとって大きな意義を持つ。日本政府は、2050年までにカーボンニュートラルを実現することを掲げており、再生可能エネルギーの導入拡大と並行して、CCSのようなカーボンマネジメント技術を活用することが不可欠とされている。特に、製鉄業やセメント産業、化学産業など、大量のCO2を排出する産業分野においては、CCSが実用化されることで、より実効性のある排出削減が可能となる。
また、CCS技術は国際的にも注目を集めており、欧米を中心にすでに実用化が進んでいる。日本としても、海外のCCSプロジェクトとの連携を深め、技術開発の加速や国際市場での競争力向上を目指している。北海道苫小牧市沖でのCCS事業が成功すれば、日本国内でのCCS事業の拡大につながるだけでなく、国際的な脱炭素技術の展開にも寄与することが期待される。
今後の課題としては、CCS事業のコスト削減と技術的課題の克服が挙げられる。現在のCCS技術は、CO2の分離・回収にかかるエネルギーコストが高く、経済的に成立させるためにはさらなる技術革新が必要である。そのため、政府や企業が連携して研究開発を進めることが求められている。また、貯留の安全性に関する社会的な理解を深めることも重要であり、地域住民や関係者との対話を重ねながら、慎重に事業を進める必要がある。
⇒ 詳しくは経済産業省のWEBサイトへ