2025年4月19日
労務・人事ニュース
MaaS導入で地域交通利用が最大18%向上、企業連携で新雇用も視野に
地域交通DX:MaaS2.0のプロジェクトを新たにスタートします!(国交省)
2025年4月1日、国土交通省は、デジタル技術の進展とモビリティ社会の変革を背景に、地域の交通サービスのあり方を再構築する新たな指針として「MaaS関連事業の展開に向けた新たな枠組み(ガイドライン)」を策定し、公表しました。これにより、これまで実証実験レベルで展開されてきたMaaS(Mobility as a Service)の取り組みが、制度的にも持続的かつ本格的な展開に進むための大きな転換点を迎えることになります。
MaaSとは、地域の公共交通機関、自動車、シェアサイクル、タクシーなどの多様な移動手段を、ICTを活用して一元的に提供する仕組みのことです。これにより、利用者は出発地から目的地までの移動手段を検索・予約・決済まで一括で行うことができ、利便性の高い移動体験が実現されます。特に地方都市や過疎地域においては、人口減少や高齢化により公共交通の維持が困難になっており、MaaSの導入によって持続可能な地域交通モデルを構築することが強く期待されています。
今回発表された新たな枠組みでは、MaaSの事業化を目指す民間事業者や地方自治体、交通事業者に対して、導入から運営、持続性の確保までを段階的に支援するための明確なロードマップが提示されました。その一つの柱は「地域交通マネジメント」の強化であり、各地域において交通に関する情報を集約し、データを活用した移動ニーズの把握と改善策の立案が可能になる体制整備が促されています。
また、ガイドラインでは、官民の役割分担が明確化されており、地方自治体が地域全体の交通ビジョンを示し、民間事業者がMaaSプラットフォームの開発・運営を担うという構図が推奨されています。国はこの枠組みの中で、財政支援や規制緩和、技術基準の整備といった側面支援を通じて、民間と自治体の連携を後押しします。特に注目すべきは、MaaSの社会実装において重要な「利用者の参加」を促すための施策も盛り込まれている点であり、住民や観光客に対する啓発活動やサービス体験の場の提供が位置付けられています。
さらに今回のガイドラインでは、先行事例としてすでに一定の成果を上げている地域の取り組みが具体的に紹介されています。たとえば、兵庫県加古川市では、駅を起点にしたバス・タクシー・自転車シェアを組み合わせたMaaSサービスが展開されており、導入前と比べて地域交通の利用者が18%増加しました。また、長野県白馬村では、観光客向けのMaaSアプリを導入したことで、冬季の公共交通利用率が21%改善されたとの報告もあります。これらの事例は、MaaSが交通インフラとしてだけでなく、地域経済や観光振興にも資する取り組みであることを示しています。
企業の採用担当者や経営戦略部門が注目すべき点は、MaaSの普及が新たなビジネスチャンスと人材ニーズを生み出すという事実です。例えば、ICTエンジニアやデータアナリスト、地域交通のマネジメント人材といった新しい職種の需要が増加することが予想されており、今後数年間でMaaS関連業種では最大で1万人以上の新規雇用が生まれると推計されています。また、サービス運用に携わるカスタマーサポートや地域調整担当など、非技術系の職種も多岐にわたるため、幅広い人材に活躍の場が提供される点も見逃せません。
加えて、企業が地域貢献やSDGs達成の文脈でMaaSに関与することも可能です。すでに一部の企業では、自社従業員の通勤支援としてMaaSアプリと連携した福利厚生制度を導入しており、職場環境の魅力向上にもつながっています。また、MaaSを活用した「通勤交通費の最適化」や「社用車の代替施策」としての活用も進んでおり、経費削減と環境負荷低減の両立が期待されています。
このように、MaaSは単なる交通システムの革新にとどまらず、まちづくり、観光、医療、教育など、あらゆる生活インフラと密接に連携しうる横断的なプラットフォームです。ガイドラインでは、今後5年間で全国300地域以上にMaaSの導入を目指すことが掲げられており、これにより国内の移動のあり方が根本から変革される可能性があるとされています。その一方で、課題も存在しており、たとえばデータ連携の標準化、プラットフォーム事業者の持続性、個人情報保護など、解決すべき論点も多岐にわたります。
これらの課題に対処するため、国は引き続きガイドラインの内容をアップデートし、技術革新や地域からのフィードバックを反映した柔軟な制度運用を行う方針を示しています。また、MaaS関連事業に参入する企業に対しては、補助金や実証実験支援制度、ベストプラクティスの共有といった多層的な支援体制が整えられており、今後さらなる官民連携の深化が期待されます。
このような背景を踏まえると、MaaSは単なるモビリティの枠を超え、地域創生、環境政策、DX推進といった多面的な国家戦略に直結するテーマとして、より多くの企業や自治体がその取り組みに参画していくことが求められます。企業の採用担当者としても、この動きを人材戦略の一環として取り入れ、MaaS分野で活躍できる人材の確保・育成に早期から取り組むことが、今後の競争力強化につながるといえるでしょう。
⇒ 詳しくは国土交通省のWEBサイトへ