2025年3月8日
労務・人事ニュース
2023年度のクマ被害が過去最多!法改正で緊急時の銃猟を可能に 2月21日(金)に閣議決定
鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律の一部を改正する法律案の閣議決定について(環境省)
環境省は2025年2月21日、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定し、第217回通常国会に提出する予定であることを発表した。この法改正は、近年深刻化しているクマやイノシシなどの野生動物による人身被害の増加を受け、より迅速かつ的確な対応を可能にするための措置を講じることを目的としている。
現在の鳥獣保護管理法では、住宅密集地や人が多く集まる場所での銃猟を禁止しており、また人や建物に向かって銃猟を行うことも厳しく制限されている。しかし近年、クマが民家や公共施設に侵入し、建物内に籠城するケースが増えていることが指摘されている。こうした状況下では、現在の法律の枠組みでは対応が困難となる場合が多く、住民の安全を確保するための迅速な対策が求められていた。
今回の改正法案では、クマなどの大型野生動物が人の生活圏に侵入し、銃猟以外の方法では速やかに捕獲や駆除が難しい場合に限り、市町村長が「緊急銃猟」として専門の捕獲者に委託して実施できるようにすることが盛り込まれた。この措置は、地域住民の安全を最優先に考え、事前に避難を徹底することで銃弾が人に届くリスクを排除したうえで実施される。
また、この改正に伴い、緊急銃猟の実施に関する細則も整備される。具体的には、市町村が緊急銃猟を実施する際、住民の安全確保のための通行制限や避難指示の権限を有することが明記された。また、必要に応じて都道府県知事に支援を要請できるようになり、より広域的な対応が可能となる。さらに、捕獲に関わる損害賠償制度も新設され、銃猟の実施により発生した損失に対する補償の枠組みが整備される。
この改正の背景には、日本国内で増加する人身被害の深刻化がある。特に2023年度には、クマによる人身被害の件数が過去最多を記録し、全国各地でクマの目撃情報が急増した。これは、温暖化の影響による生態系の変化や、里山の放棄による野生動物の生息域拡大が一因とされている。また、冬眠時期の変動や食料不足による異常行動の増加も、クマが人里に出没する要因として指摘されている。
これまでの法律では、野生動物の保護と管理を両立することを目的としており、極力捕殺を避ける方針が取られてきた。しかし、実際にはクマによる住宅侵入や攻撃が相次ぎ、人命を守るための対応が求められるケースが増えている。今回の法改正では、人間の生活圏に危険をもたらす場合に限り、適切な手続きのもとで銃猟を認めることで、迅速かつ確実に被害を防ぐ体制を整備する。
今後、法案が国会で承認されれば、一部を除き公布から6カ月以内に施行される予定となっている。これにより、各自治体は新たな法律に基づき、緊急時の対応策を整えることが求められる。自治体や猟友会、専門家との連携を深め、実際の運用に向けた研修や訓練も必要となるだろう。
また、政府としては、野生動物との共生を促進するための環境整備にも取り組んでいく方針を示している。単なる駆除だけでなく、野生動物の生息域管理、適切な餌場の整備、森林環境の保全など、長期的な視点での対策を強化することで、人と野生動物が安全に共存できる社会を目指す。
今回の法改正は、野生動物の保護と人間の安全確保のバランスを取るための一歩となる。今後も、実際の運用を通じて改善点を洗い出し、より実効性の高い仕組みを構築していくことが求められる。特に、銃猟を行う際の基準や手続きの明確化、訓練を受けたハンターの確保、地域住民への周知など、実際の現場で混乱が生じないような体制整備が必要となる。
また、全国的にクマの被害が増加していることから、各自治体ごとの対応力の向上が求められる。都市部や地方を問わず、野生動物と共存する社会のあり方を見直し、長期的な観点から持続可能な管理策を検討することが重要である。
⇒ 詳しくは環境省のWEBサイトへ