2025年7月23日
労務・人事ニュース
クマ・イノシシ出没時の対応に備えた緊急銃猟制度、2025年7月8日にガイドライン公開
緊急銃猟ガイドラインの公表について(環境省)
令和7年7月8日、環境省は人と野生動物の共存を図るための新たな対策として、緊急銃猟制度に関するガイドラインを公表しました。これは、同年に公布された「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律の一部を改正する法律(令和7年法律第28号)」に基づき創設された制度であり、特に市街地や農村部など人の生活圏にクマやイノシシなどの大型獣が出没した際、迅速かつ的確な対応を可能とすることを目的としています。
この新制度の実施主体は市町村であり、地域の実情に応じて柔軟に対応できるよう設計されています。従来、銃猟には厳格な条件と許可手続きが必要でしたが、今回の改正では緊急性が高い事案に限り、地方自治体が委託する者による銃猟を認める特例が設けられました。これは、人命や財産を守るための実務的かつ現場重視の措置であり、被害の未然防止や拡大抑制において大きな意義を持ちます。
発表されたガイドラインには、制度の背景や基本的な考え方、そして具体的な実施方法について、図解や事例を交えて丁寧に解説されています。緊急銃猟を実施するか否かの判断基準、安全管理の徹底、捕獲に関する技術的な留意点、さらに捕獲後の対応や報告手続きまで、多角的な観点から整理されており、実務担当者にとって実践的な内容となっています。
特に注目すべきは、安全対策に関する項目です。銃猟という手段は、極めて慎重に運用されなければならないため、ガイドラインでは第三者の安全確保を最優先にした体制の整備を強く求めています。例えば、出没場所が小学校や福祉施設の近隣である場合には、時間帯や射程距離、周辺住民への事前通知の在り方まで、具体的な指針が記されています。これにより、過度な不安を煽ることなく、安心して生活を送れる地域環境の構築が期待されます。
この制度の運用を支えるため、今後は全国の自治体職員を対象にした説明会や研修会が段階的に実施される予定です。自治体によっては野生動物対策の経験が限られている場合も多いため、こうした人材育成の取組みは制度の円滑な定着に向けて重要な役割を果たします。特に山間部や中山間地域では、過去5年間でクマやイノシシによる人身被害が年間200件を超える年もあり、迅速な対応体制の構築は喫緊の課題とされています。
なお、緊急銃猟の対象となる動物や実施条件についても、法律およびガイドラインに明記されています。対象は主にクマやイノシシなど、地域によって出没が確認される特定種とされ、通常の被害防止措置では対処が難しい状況に限定されています。これにより、不必要な捕獲や乱獲を防ぎ、生態系への過剰な影響を与えないようバランスの取れた制度運用が図られています。
環境省は今後も各自治体と連携し、法改正の趣旨が確実に現場で活かされるよう継続的な支援を行う方針です。地方自治体が主体的に行動できる体制を整えることが、住民の安心と自然環境の保全を両立させる鍵となるでしょう。制度の導入を契機に、地域ごとの実情に即したリスクマネジメントがより一層重要になるとともに、自治体にとっては、危機管理能力や協働ネットワークの構築も含めた総合的な施策の展開が求められます。
この緊急銃猟制度は、人と野生動物の共存を模索する中で誕生した、極めて実用的かつ慎重な仕組みです。今後の運用によって、より安全で持続可能な地域社会の形成が期待されます。
⇒ 詳しくは環境省のWEBサイトへ