労務・人事ニュース

令和5年度　社会保障費用統計（社人研）

---

この記事の概要

国立社会保障・人口問題研究所は令和5年度の社会保障費用統計を公表した。社会保障費用は総額139兆8,561億円で前年度比2兆8,266億円減少し、一人当たりでは112万4,700円と1万7,300円減少した。新型コロナウイルス感染症対策費の縮小が主因とされるが、年金は増加する一方、医療費は大幅に減少した。

---

国立社会保障・人口問題研究所が取りまとめた令和5年度（2023年度）の社会保障費用統計によると、社会支出（OECD基準）の総額は139兆8,561億円となり、前年度と比較して2兆8,266億円、率にして2.0％の減少が確認された。この減少は一人当たりの社会支出にも反映されており、112万4,700円と前年度から1万7,300円減少した。背景には、新型コロナウイルス感染症対策関係費の縮小があり、2023年5月に感染症法上の位置づけが2類相当から5類へと移行したことに伴い、医療機関への緊急包括支援交付金などが大きく減少したことが大きな要因となっている。

政策分野別に見ると、最も大きな割合を占めたのは「保健」で59兆333億円、次いで「高齢」が49兆3,574億円、「家族」が11兆5,122億円となった。前年度との比較では、「高齢」が4,709億円、率にして1.0％の増加を示した一方、「保健」は3兆489億円、4.9％の大幅減少となり、「積極的労働市場政策」についても8,013億円、47.2％の減少が見られた。このことから、高齢化の進展に伴い高齢者関連支出は増加を続ける一方で、感染症対策関連支出の終了が医療部門の縮小を顕著にしたことが読み取れる。

ILO基準による社会保障給付費の総額は135兆4,928億円であり、これも前年度比2兆6,809億円、1.9％の減少を示した。一人当たりの給付費も108万9,600円と、前年度比で1万6,300円減少した。部門別では「医療」が45兆5,799億円、「年金」が56兆3,936億円、「福祉その他」が33兆5,192億円となっている。特に「医療」が3兆1,890億円、6.5％の減少を記録した一方で、「年金」は6,029億円、1.1％の増加を見せている。福祉その他は948億円、0.3％の減少にとどまり、相対的に安定している。この結果からも、高齢化に伴う年金支出の増加が続く一方、医療関連費用はコロナ特需が解消されたことで減少に転じていることがわかる。

一方、社会保障財源（ILO基準）は198兆77億円と大幅に増加し、前年度比44兆9,203億円、29.3％の伸びを記録した。これは主に年金積立金の運用実績が向上し、資産収入が増加したことによる。財源の充実は制度の安定性に寄与する一方で、実際の給付費が減少しているという乖離も存在しており、持続可能な制度設計が引き続き求められている。

国際比較においては、社会支出の対GDP比で見ると2021年度時点の日本はフランス、ドイツ、アメリカ、スウェーデンよりも小さく、EU基準の社会保障財源においても2022年度時点でフランスやドイツ、スウェーデンより小さい水準にとどまっている。この結果は、日本が高齢化先進国でありながらも社会保障制度の規模では欧州諸国と比べて依然として控えめであることを示している。

この統計結果は、政策立案者だけでなく企業の採用担当者にとっても重要な示唆を持つ。高齢化による年金負担の増加は将来的な労働市場や社会保険料負担に影響を及ぼすため、若年層や外国人材の確保が企業経営に直結する課題となる。また医療費の縮小や財源の増加といった動向は、企業が従業員の福利厚生制度を検討する際の参考にもなるだろう。社会保障制度の持続可能性は、働く世代にとっての安心感やキャリア選択にも直結するため、採用活動においても説得力ある説明が求められる。

この記事の要点

• 社会支出総額は139兆8,561億円で前年度比2兆8,266億円減少
• 一人当たり社会支出は112万4,700円で1万7,300円減少
• 最も大きな政策分野は保健で59兆円、高齢は49兆円を超える
• 医療費は3兆1,890億円減少し年金は6,029億円増加
• 社会保障財源は198兆円と29.3％増加し年金運用収益が寄与
• 国際比較では日本の社会支出対GDP比は欧州主要国より小さい

⇒ 詳しくは国立社会保障・人口問題研究所のWEBサイトへ