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2025年4月28日

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若年層の資産ゼロ世帯が急増、20代から50代の資産格差が顕著に

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日本における所得・収入・資産格差に関する長期的視点からの考察:1984年~2019年(内閣府)

日本における1984年から2019年までの約35年間にわたる家計の収入・所得・資産格差の変遷を分析した最新の調査結果が、2025年4月に経済社会総合研究所(ESRI)より発表されました。本報告書は、家庭ごとのマイクロデータをもとに格差の実態とその背景にある構造的要因を多角的に検証したものであり、企業の採用戦略や福利厚生の設計に直結する重要なインサイトを提供しています。とりわけ人材獲得競争が激化する中で、求職者の経済背景やライフステージに応じた柔軟な制度設計が求められている今、こうした長期的な格差の実態を理解することは、採用担当者にとって極めて有益です。

まず、家計の「稼得収入(労働と事業所得)」「可処分所得(税引き前収入)」「金融資産(現金・預金・株式・保険など)」の3項目すべてにおいて格差が拡大しているという事実が明らかになりました。たとえば、稼得収入のジニ係数(格差を数値化する指標)は、1984年の0.38から2019年には0.56へと大幅に上昇しました。これは、上位1%の世帯の平均稼得収入が下位層の約6倍以上に達する状況を示しており、富の集中が進んでいることを物語っています。

特に注目されるのは、世帯主の高齢化に伴って、年齢層ごとの格差が拡大している点です。高齢世帯ほど所得や資産における格差が顕著であり、これは公的年金制度の拡充やリタイア後の資産保有状況の二極化が影響しています。一方、若年層では極端に資産が少ない世帯が増加しており、20代から50代にかけての年齢層において資産格差のジニ係数が急激に上昇しています。これは、持たざる世帯の割合が増えたことを意味しており、住宅取得や将来設計への不安が広がっていると解釈できます。

金融資産については、平均値は1984年の710万円から2019年には約1,248万円へと増加していますが、中央値は2019年時点で515万円にとどまっており、実際の資産分布が上位に偏っていることを示しています。実際、上位1%の世帯が保有する資産は平均の12.7倍にも達しており、これは米国やドイツなど他のOECD諸国と比較しても穏やかではあるものの、確実に集中が進んでいることが伺えます。

これらの格差拡大の背景には、急速な高齢化だけでなく、世帯構造の変化も大きな影響を及ぼしています。たとえば、1984年には3.35人だった平均世帯人数が2019年には2.28人にまで減少し、特に単身世帯の割合が17.9%から35.3%に倍増しています。これは、未婚率の上昇や離婚率の増加、高齢の単身者の増加といった社会的変化を反映しています。また、共働き世帯の割合が増加し、配偶者が就労している世帯の比率は2019年時点で52.5%に達しており、女性の労働参加率の上昇が背景にあります。

労働市場の変化も見逃せません。非正規雇用の割合は男女ともに増加しており、2020年には女性で50%以上、男性でも20%を超える水準に達しています。非正規雇用は給与水準が低く、社会保障のカバー率も低いため、将来的な所得や資産の格差につながる可能性が高いと考えられます。また、自営業者の割合は1980年の17%から2020年には8%以下へと減少しており、起業や独立による所得上昇のチャンスが限定されつつある点も、社会的な流動性の低下を示しています。

マクロ経済の観点から見ると、1980年代後半から1990年代初頭のバブル期には急激な成長が見られた一方、バブル崩壊後は長期的な経済停滞が続き、所得の伸びが止まったままとなっています。特に20代から50代のいわゆる「働き盛り世代」の所得や稼得収入のライフサイクル曲線が大きく下方シフトしており、若年世代の将来不安が顕在化しています。

このような格差拡大の実態は、企業の人材戦略にも大きな影響を与えます。たとえば、採用活動においては、候補者の経済的背景に配慮した柔軟な初任給設定や福利厚生制度の導入が、優秀な人材確保の鍵となります。また、社内研修制度の充実や金融リテラシー教育の導入によって、従業員の中長期的な資産形成を支援することも、従業員満足度の向上に寄与するでしょう。

特筆すべきは、2014年から2019年にかけて、わずかではあるものの稼得収入の平均が上昇し、ジニ係数が減少傾向に転じたことです。この変化は、同様に家計調査(FIES)でも確認されており、格差の拡大に一定の歯止めがかかりつつある兆候とも受け取れます。しかしながら、若年層の資産形成が進まない状況や、高齢世帯との格差が依然として顕著である点を踏まえると、企業側の施策には引き続き長期的な視点が求められます。

採用担当者にとっては、こうした詳細な統計データを踏まえたうえで、ターゲット人材の生活実態を正確に捉え、企業が提供できる「価値」をいかに具体的に訴求するかが今後ますます重要になっていきます。たとえば、住宅手当やリモートワーク制度、介護支援制度など、従業員のライフステージに寄り添った制度の充実が、他社との差別化につながります。

このように、経済格差の拡大という現実は、企業にとってリスクであると同時に、競争優位性を高める機会でもあります。経済的背景の異なる多様な人材が安心して活躍できる環境を整えることこそが、持続的な成長と企業価値の向上を実現するカギとなるのです。

⇒ 詳しくは内閣府のWEBサイトへ

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